南殿

南殿（みなみどの）

南殿は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけての女性で、羽柴秀吉の側室の一人とされています。しかし、その生涯には不明な点が多く、様々な異説も存在します。

生涯

南殿は、秀吉が近江長浜城主であった頃に側室となったと考えられています。秀吉の最初の子である石松丸（後の羽柴秀勝）を産んだとされます。このことから、長浜城の南側に与えられた館に住んでいたため、「南殿」と呼ばれるようになったと推測されています。しかし、秀勝は数年後に夭折し、その後、南殿は秀吉との間に女子をもうけますが、この子もまた早世してしまいます。

南殿の出自については、山名禅高の娘であるという説も存在しますが、確証はありません。また、竹生島の宝厳寺の文書にその名が見られるものの、寄進額が少ないことから、側室であったかどうかを疑問視する研究者もいます。いずれにしても、南殿は秀吉の有力な妻妾には数えられず、二人の子を亡くした後、竹生島の宝巌寺で出家したと伝えられています。没年は寛永11年（1634年）です。

秀吉との関係

南殿が秀吉の側室であった時期は、正室である寧々（高台院、北政所）との関係が複雑化した時期と重なります。秀勝が生まれ、さらに女子が生まれたとされる天正4年（1576年）は、寧々が秀吉の不貞を織田信長に訴え、信長が秀吉を叱責した年でもあります。このことから、南殿の存在が寧々と秀吉の夫婦関係に影響を与えた可能性も指摘されています。

異説

秀勝の母については、南殿の他に、浅井家祐筆であった石田長楽庵の娘、於葉の方とする説や、同じく側室である京極竜子とする説も存在します。於葉の方は、秀吉に石田三成を引き合わせたという逸話が残っていますが、秀勝の死後、琵琶湖に入水したという悲劇的な話も伝わっています。

南殿を含め、淀殿以外の秀吉の子を産んだ側室の存在は、秀吉に子種がなく、淀殿が密通して鶴松や秀頼をもうけたという俗説に対する反証になりうるという見方もあります。一方で、秀勝の実在自体を疑問視する声も存在しており、南殿の存在をめぐる議論は多岐にわたります。

登場作品

南殿は、多くの時代劇やドラマに登場しています。以下に主な作品を挙げます。

『おんな太閤記』（1981年、NHK大河ドラマ）演：沢田雅美
『秀吉』（1996年、NHK大河ドラマ）演：川上麻衣子（設定名は「おかつ」）
『功名が辻』（2006年、NHK大河ドラマ）演：田辺愛美
『軍師官兵衛』（2014年、NHK大河ドラマ）演：辻本みず希
『光秀のスマホ 歳末の陣』（2020年、NHK総合）演：小島みなみ
『秀吉のスマホ』（2023年、NHK総合）演：小島みなみ

まとめ

南殿は、秀吉の側室として歴史に名を残していますが、その実像は謎に包まれています。秀吉との関係、二人の子を亡くした悲劇、そしてその後の出家など、彼女の生涯は多くの謎と物語に彩られています。史料が少ないため、断定的なことは言えませんが、南殿の存在は、当時の社会や人間関係を考える上で重要な手がかりの一つとなっています。

参考文献

水江漣子『近世史のなかの女たち』日本放送出版協会、1983年。ISBN 4140014407。
田中阿里子『歴史と旅』（秋田書店、1981年1月号）
桑田忠親『戦国の女性』 7巻、秋田書店〈桑田忠親著作集〉、1979年。ISBN 4253003583。
服部英雄 『河原ノ者・非人・秀吉』（山川出版社、2012年）

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