南進

南進（なんしん）とは

南進、またはベトナム語でナムティエンと呼ばれるこの歴史的な出来事は、11世紀から18世紀半ばにかけて、ベトナムの主要民族であるキン人の国家が、南へと領土を拡大していった過程を指します。キン人の国家は、元来の居住地であった紅河デルタから、徐々にその支配領域を広げていきました。この拡大により、現在のベトナムはインドシナ半島の東海岸全域を制圧するに至っています。

南進の背景

ベトナムの領土拡大は、地理的な要因に大きく影響されました。安南の東側は南シナ海、北側は中国、西側はアンナン山脈に囲まれており、南方向への領土拡張が最も現実的な選択肢でした。この南進によって、ベトナムは現在の国土をほぼ完成させることになります。11世紀以降、約700年をかけて、ベトナムの領土は約3倍にまで拡大しました。

南進の初期段階

10世紀にベトナムが独立を果たした後、14世紀に入るまでは、国内の統治や治水事業に注力していたため、南進は本格化しませんでした。この時期、南方の占城（チャンパ）とはしばしば戦闘を繰り広げていましたが、決着がつかない状況が続いていました。しかし、14世紀後半に占城からの攻撃で大きな被害を受けたことをきっかけに、ベトナムは本格的な南進を開始することになります。

南進の本格化

1427年に明からの独立を果たした黎朝の成立後、南進は本格的に進展しました。特に黎聖宗の時代には、占城の首都ヴィジャヤを攻略し、占城王国を滅亡させました。この占城併合後も南進は継続されましたが、16世紀から17世紀にかけてベトナム国内で内紛（南北朝時代、鄭阮紛争）が発生し、一時的に南進は中断しました。しかし、この内紛終結後、17世紀中葉から再び南進が開始されました。

海上貿易と南進再開

16世紀から17世紀にかけて、東アジアと東南アジアでは華僑の進出が活発化し、南シナ海や東シナ海での貿易が盛んになりました。阮主政権は、会安（ホイアン）を貿易港として整備し、外国との貿易を積極的に行いました。特に日本は最大の生糸輸入国であり、会安は日本への生糸輸出拠点として栄えました。しかし、日本の鎖国政策により生糸貿易が衰退すると、阮主政権は再び南進へと舵を切りました。

メコンデルタへの進出

17世紀末には、占族の残党を滅ぼし、さらにカンボジア王室の混乱に乗じて、南部での勢力拡大を図りました。1698年には、プレイノコール（現在のホーチミン市）まで勢力を拡大しています。18世紀以降は、カンボジア王室がタイ（アユタヤ王国）の圧力に対抗するために阮主に救援を求め、これに乗じて阮主の勢力はさらに拡大しました。18世紀末までにはメコンデルタやカンボジア南部諸州をほぼ制圧し、現在のベトナムの領土がほぼ確定しました。

李朝、陳朝、胡朝時代の占城との関係

李朝、陳朝、胡朝の時代、ベトナムと占城の間では度重なる軍事衝突が発生しました。結果としてベトナム側が優勢に立つことが多かったものの、その関係は安定しませんでした。

特に李朝時代の1044年には、李太宗が占城に親征を行い、多くの戦果を挙げました。1069年には、李聖宗が占城に親征し、占城王を捕虜にするという出来事もありました。これらの出来事は、両国間の緊張関係を象徴する出来事と言えるでしょう。

このように、南進はベトナムの歴史において、非常に重要な出来事でした。この過程を経て、ベトナムは現在の国土と文化を形成することになったのです。

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