黎聖宗

黎聖宗（レ・タイントン）

黎聖宗（れいせいそう、ベトナム語: Lê Thánh Tông）は、後黎朝大越の第5代皇帝（在位：1460年 - 1497年）です。諱は黎思誠（れいしせい、ベトナム語: Lê Tư Thành）、別名として黎灝（れいこう、ベトナム語: Lê Hạo）も知られています。現在のベトナム各地には、その名を冠した「レ・タイントン通り」が数多く存在し、その偉業を今に伝えています。

生涯

黎聖宗は、第2代皇帝太宗の四男として昇龍（タンロン）で生まれました。幼少期は平原王に封じられ、その後、兄の仁宗が殺害される混乱の中で、軍部のクーデターによって擁立され、皇帝の座に就きます。即位前の政治や軍事的な活動については、『大越史記全書』にはほとんど記録されていませんが、学問を愛し、特に経典を熱心に読んだことが伝えられています。

外征と外交

即位後、黎聖宗は軍制改革を断行し、強力な軍隊を育成しました。その成果は、チャンパとの戦いで顕著に現れます。1470年にはチャンパの侵攻を撃退し、逆にチャンパの首都ヴィジャヤを陥落させるなど、軍事的な手腕を発揮しました。これにより、チャンパの旧領に広南承宣を設置し、ベトナム南部への領土拡大を推し進めました。また、ラオスへの遠征では、ラーンサーン王朝の首都ルアンパバーンを破壊し、現在のジャール平原に鎮寧府を設置して統治するなど、周辺地域への勢力拡大にも積極的でした。さらに、雲南への派兵やマラッカ王国への影響力拡大も試み、後黎朝の最大版図を築き上げました。

対外政策においては、明への対応も重要でした。黎聖宗はチャンパへの侵攻を正当化し、明の介入をかわそうとしました。明側は聖宗の主張が事実と異なることを知りつつも、強硬な介入は避け、土地の返還を勧めるにとどまりました。1485年には、周辺国に対して後黎朝への朝貢を促し、その中にはラオス、チャンパだけでなく、ジャワ、シャム、マラッカなどの名前も見られます。これにより、後黎朝の影響力が広範囲に及んでいたことがうかがえます。

光順中興

内政においては、明の制度を参考に、相国を廃止し、吏部、戸部、礼部、兵部、刑部、工部の六部を設置しました。また、翰林院、国史院、御史台などの専門機関も設けられ、中央集権体制の強化が図られました。1483年には律令『洪徳法典（国朝刑律）』を公布し、法制度の整備も進めました。この法典は、中国的な封建制度を基盤としつつ、ベトナム本来の法律と慣習を成文化したもので、女性の権利保護に関わる条文も含まれていました。

地方制度も整備され、国土を13の承宣（トゥアティエン）に分け、昇龍を中都府と定めました。承宣の内部はさらに府県に細分化され、より効率的な行政運営を目指しました。土地制度においては、紅河デルタ一帯に均田制を施行し、公田を6年ごとの検地に基づいて農民に公平に分配しました。これにより、税収と兵数の正確な把握が可能になりました。また、紅河デルタに存在していた集落を社（サー）という区画にまとめ、徴税、徴兵、公共事業の単位としました。この制度は、1954年のベトナム民主共和国による土地改革まで、500年近くにわたり紅河デルタの土地制度を支え続けました。

これらの施策により、黎聖宗の治世は後黎朝の全盛期を迎え、「光順中興」と称えられました。中国の史書『明史』においても、黎聖宗の治績は高く評価されています。

科挙とベトナム文化

黎聖宗は、先代の皇帝が目指した官僚主導の政権構築を推し進めました。科挙制度の整備は、その重要な柱の一つです。受験資格の制定や試験方法の改定により、官僚の質を高め、優秀な人材を登用しました。科挙合格者の名前は石碑に刻まれ、後世にその功績を伝えました。科挙によって朱子学が振興し、文人官僚が増加したことは、史学やベトナム漢文学の隆盛にもつながりました。

『嶺南摭怪』の編纂や、『大越史記全書』の完成は、聖宗期の史学界を代表する出来事です。また、黎聖宗自身も詩作を好み、文芸サロンを主宰するなど、文化の振興にも熱心でした。その著作には、漢文による『瓊苑九歌』『珠璣勝賞』『征西紀行』などや、チュノムを用いた『洪徳国音詩集』、詩集『天南余暇集』などがあります。

黎聖宗は、軍部で要職を占めていた清華出身者の勢力を抑えるため、科挙合格者に南策出身者を多く加えました。しかし、このことが後に清華出身の軍人と南策出身の新興官僚との対立を招き、後黎朝が衰退に向かう一因となりました。黎聖宗の死後、長男の憲宗が跡を継ぎましたが、内紛が激化し、後黎朝は徐々に衰退期に入ります。

子女

黎聖宗は合わせて14男20女を儲けました。

男子:

憲宗 黎暉
梁王 黎銓
宋王 黎鏦
唐王 黎鎬
建王 黎鑌 - 昭宗により徳宗建皇帝と追尊された。
福王 黎錚
演王 黎鏓
広王 黎鐰
臨王 黎鏘
応王 黎｛金+昭｝
義王 黎｛金+耿｝
鎮王 黎鋞
肇王 黎鋑
荊王 黎鍵

黎聖宗は、その卓越した政治手腕と文化的な功績により、ベトナム史において最も偉大な皇帝の一人として記憶されています。

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