厚皮類

厚皮類（こうひるい）

厚皮類（Pachydermata）は、かつて動物分類学において用いられていた哺乳類のグループ名です。18世紀末から19世紀初頭にかけて活動したフランスの博物学者、ジョルジュ・キュヴィエ男爵によって提唱されました。これは、現代の動物分類学が確立される以前の、初期の哺乳類分類体系の一つに位置づけられます。

キュヴィエは、当時の主要な哺乳類グループであった「有蹄類」、すなわち蹄（ひづめ）を持つ動物たちを、二つの大きな「目」（Order）に分けました。一つは反芻を行う動物たちをまとめた「反芻目」（Ruminantia）で、もう一つがこの「厚皮目」（Pachydermata）でした。反芻目には、現在の分類でいうウシやシカなどが属する反芻亜目だけでなく、ラクダのように反芻を行う動物も含まれていました。これに対し、厚皮目には、反芻をしない有蹄類、あるいはそれに近い形態を持つと見なされた動物たちがすべて含められたのです。

厚皮目に分類された動物は多岐にわたります。現代の分類体系に当てはめてみると、鯨偶蹄目の中でイノシシの仲間（イノシシ亜目）やカバの仲間（カバ下目）、そしてウマ目、ゾウ目、さらにはイワダヌキ目といった、現在では大きく異なる目や亜目に分類されている動物たちが、かつては同じ「厚皮目」という枠に入れられていたことになります。

彼らに「厚皮」という名前が与えられたのは、その最も顕著な身体的特徴に由来します。厚皮類に分類された動物たちの多くは、非常に分厚く、丈夫な皮膚を持っていました。この特徴は、外部からの物理的な刺激や乾燥などから身を守るのに有利だったと考えられます。また、厚い皮膚に関連して、全身を覆う体毛が比較的少なく、皮膚の表面には人間の皮膚に見られるような細かい網目状の模様が見られることも共通する特徴として挙げられました。

しかし、こうした厚い皮膚などの共通点は、これらの動物たちが持つ遺伝的な類縁性を示すものではありませんでした。むしろ、体重を支えたり、外部の環境に適応したりするために、系統発生的に異なる動物グループがそれぞれ独立して獲得した形質、いわゆる「収斂進化」の結果として似通った特徴を持っていたと考えられます。キュヴィエの時代にはまだ遺伝学や現代的な系統学の考え方はありませんでしたが、現代の視点から見れば、厚皮類は単一の共通祖先から派生したグループではなく、複数の異なる系統が形態的な類似性に基づいて人為的に集められた「多系統群」であったと言えます。

19世紀に入り、動物の骨格や歯の特徴など、より詳細な形態比較に基づく研究が進むと、キュヴィエの分類体系は見直されるようになります。イギリスの古生物学者リチャード・オーウェンらが提唱した、蹄の数や肢の構造に基づいた「偶蹄目」と「奇蹄目」という分類は、動物たちの類縁性をよりよく反映していると考えられ、広く受け入れられるようになりました。これにゾウを含む長鼻目やイワダヌキ目などが独立した目として認識されるようになり、キュヴィエの厚皮類という分類群は徐々に使われなくなり、歴史の中に消えていきました。

ちなみに、キュヴィエ自身は、この厚皮目をさらに三つの「科」（Family）に細分化していました。一つは、現在のゾウ目にほぼ相当する「Proboscidea」（学名は同じですが、当時は科として扱われました）。もう一つは「Ordinaria」と呼ばれたグループで、「普通のもの」といった意味合いですが、ここにはカバ、イノシシ、ペッカリー、サイ、バク、ハイラックスといった、現代では多様な目に分類される動物たちが含まれていました。そして最後の一つは「Solidungula」で、「固まった蹄」、つまり蹄が一つしかない動物を意味し、現在のウマ科がこれにあたります。この下位分類からも、厚皮類に含まれていた動物たちの系統的なばらつきが見て取れます。

現代の哺乳類分類学では、分子生物学的な手法なども用いられ、動物たちの遺伝的なつながりに基づいた分類（系統分類学）が主流となっています。そのため、形態的な類似のみに基づき、系統的なまとまりを欠く厚皮類のような分類群は認められていません。厚皮類は、動物分類学の発展における一つの段階を示す、歴史的な分類群として記憶されています。

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