反芻

反芻（Rumination）とは

反芻とは、主に偶蹄目の草食動物に見られる食物の摂取方法です。一度飲み込んだ食物を再び口に戻して咀嚼し、それを繰り返すことで消化を促進します。この特殊なプロセスは、植物繊維を効率的に分解し、栄養を最大限に引き出すために進化しました。

反芻動物の種類

反芻を行う動物は反芻動物（Ruminant）と呼ばれ、大きく分けて以下の2つの亜目に分類されます。

反芻亜目（狭義の反芻動物）: ウシ、ヤギ、ヒツジ、キリン、バイソン、シカ、ヌー、アンテロープなど
ラクダ亜目（核脚類）: ラクダ、ラマなど

反芻亜目の動物は、4つの部屋に分かれた胃（ルーメン、レティキュラム、オマスム、アボマスム）を持っています。一方、ラクダ亜目の動物は第三胃を持たない3室の胃を持っています。近年の研究では、ラクダ亜目は偶蹄類の中でも早期に分岐したグループであり、反芻亜目とは遠縁であることが示唆されています。そのため、両者の反芻能力は独立して進化したと考えられています。

マメジカ科もラクダ亜目と同様に3室の胃を持ち、これらはまとめて pseudoruminants と呼ばれることがあります。

霊長類の中にも、コロブス亜科のように複数の胃室を持ち、共生微生物の働きを利用して植物を消化するものがいます。また、テングザルも反芻に類似した行動を示すことが確認されています。

有袋類では、カンガルー型類が擬反芻と呼ばれる反芻に似た採食行動を示すことが知られています。

反芻のプロセス

1. 食物の摂取と一次咀嚼: 草などの植物を口で咀嚼し、唾液と混ぜ合わせます。
2. 反芻胃への移動: 咀嚼された食物は、第一胃（ルーメン）と第二胃（レティキュラム）からなる反芻胃に送られます。ここでは、食物は唾液と混合され、固形物と液体に分離されます。
3. 食い戻しと二次咀嚼: 第一胃に留まった固形物は、「食い戻し」と呼ばれる塊となって再び口に戻され、より細かく咀嚼されます。この過程で、食物繊維が細かく砕かれ、唾液と十分に混合されます。
4. 微生物による発酵: 細かく砕かれた食物は再び第一胃に戻され、共生微生物（細菌、原生動物、菌類）によって分解・発酵されます。この発酵によって、低級脂肪酸（酢酸、プロピオン酸、酪酸など）が生成されます。
5. 第三胃への移動: 発酵後の食物残渣は、共生微生物菌体とともに第三胃（オマスム）へ送られ、水分が除去されます。
6. 第四胃での消化: 最後に、食物は第四胃（アボマスム）へ送られ、胃液によって共生微生物菌体や代謝産物が消化されます。消化された栄養素は、小腸で吸収されます。

反芻動物は、このように共生微生物の力を借りることで、植物を効率的に消化し、栄養を吸収しています。

反芻しない草食動物

ウマ、ウサギ、ゾウ、サイ、カバなどは反芻動物とは異なり、反芻胃を持ちません。これらの動物は、盲腸や結腸に共生する微生物によって食物繊維を分解・発酵させる後腸発酵というプロセスを利用します。後腸発酵動物は、消化管が長くなる傾向があり、大型化しやすいという特徴があります。

ウサギなどの小型後腸発酵動物は、盲腸糞と呼ばれる柔らかい糞を食べることで、一度の発酵では得られなかった栄養を補給します。この行動は糞食と呼ばれます。

その他の動物における反芻

雑食動物や肉食動物の多くは、盲腸での食物繊維分解能力が低く、栄養として利用できません。ただし、ブタは比較的効率的に食物繊維を分解・吸収することができます。

宗教的な意味合い

ユダヤ教の食事規定（カシュルート）では、「反芻し、蹄が分かれている動物」のみが食用として認められています。

心理学における反芻

心理学では、同じ事柄について繰り返し考え続けることを「反芻」と表現することがあります。

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