古今和歌六帖

古今和歌六帖

『古今和歌六帖』（こきんわかろくじょう）は、日本の平安時代に編まれた、個人の撰による和歌集です。全六巻（六帖）から構成され、多岐にわたる題材別に約4000首を超える和歌を分類・収録しています。書名に「帖」とあることから、当初より冊子の形で成立したと考えられており、その書名や構成方法は、中国の書物『白氏六帖』から影響を受けた可能性が指摘されています。

成立と撰者

本書がいつ成立し、誰によって撰ばれたのかは明らかになっていません。しかし、おおよそ天禄年間から円融天皇の時代にかけて（970年頃から984年頃）に編まれたと推定されています。撰者についても、紀貫之、兼明親王、具平親王など諸説が挙げられていますが、源順（みなもとのしたがう）であるとする見解も有力視されています。

内容と構成

本書は六つの巻に分かれており、それぞれの巻には以下のような題材に分類された和歌が収められています。伝本によっては収録歌数にばらつきがあり、重複も見られます。

第一帖: 歳時に関する歌。春、夏、秋、冬の季節の歌に加え、天象に関する歌。
第二帖: 地理や人事に関する歌。山、田、野、都、田舎、家といった景物や場所、人間、仏事に関する歌。
第三帖: 水に関する歌。
第四帖: 感情や儀礼に関する歌。恋、祝（祝賀）、別（別れ）に関する歌。
第五帖: 雑多な思念や服飾に関する歌。雑思のほか、服飾、色、錦綾に関する歌。
第六帖: 動植物に関する歌。草、虫、木、鳥に関する歌。

収録されている和歌は、『古今和歌集』や『後撰和歌集』からの採録が多く見られます。さらに特筆すべきは、『万葉集』からの採録歌も千首以上に及ぶ点です。特に『万葉集』の歌は、古い時代の訓読の形を残しているとされており、当時の『万葉集』の享受や本文研究の上でも貴重な資料となっています。

伝本と研究史

現存する『古今和歌六帖』の伝本のうち、最も古いとされるのは永青文庫に収められている文禄4年（1595年）の奥書を持つ写本です。これより以前の時代の写本は確認されていません。

多くの伝本には、嘉禄3年（1227年）に民部卿藤原定家が所持していた写本を源家長が書写した旨の奥書が見られます。現在確認できる写本は、ほぼ全てがこの定家本系統の流れを汲むものと考えられています。しかし、これらの写本には本文の誤りや脱落などが含まれており、典拠とすべき信頼できる善本が存在しないという問題を抱えています。

本書の本格的な研究は、江戸時代の著名な国学者である契沖が校訂本を作成したことによって始まったとされています。寛文9年（1669年）には本書の版本が刊行され、これが今日「流布本」として広く知られるようになりました。さらに天保11年（1840年）には、この流布本を底本としつつ、他の写本とも照合して本文を校訂した『古今和歌六帖標注』（山本明清校注）が出版されています。近年では、室城秀之氏による詳細な注釈書が和歌文学大系として刊行されるなど、現在も研究が進められています。

（注釈書・参考文献・外部リンクについては、識者の研究を参照されたい。）

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