古儀式派

古儀式派：ロシアの伝統を守る信仰

古儀式派（露: старообрядчество）は、17世紀にロシア正教会で実施された奉神礼改革に反対し、主流派から分離した諸教派の総称です。彼らは、改革以前の古い祈祷様式を保持し、独自の信仰を守り続けてきました。旧儀派、旧教徒、スタロヴェールなど、様々な呼び名があります。

古儀式派の誕生

1666年、ニーコン総主教による奉神礼改革は、それまでの伝統的な儀式や聖書の一部変更を伴いました。これに反発した人々は、古い信仰を守ることを選び、主流派教会から分離しました。この分離は「ラスコール（分裂）」と呼ばれ、分離した人々は「ラスコーリニキ（分離派）」という蔑称で呼ばれることもありました。

古儀式派の分類

古儀式派は、聖職位階の存在に対する考え方の違いから、大きく二つのグループに分かれています。

司祭派（容僧派）：有効な聖職位階の存在を認めるグループ。
無司祭派（無僧派）：聖職位階を否定するグループ。

無司祭派はさらに多くの教派に分かれており、ポモールツィ、フェドセーエフツィ、礼拝堂派、スパソフツィ、ベグーヌィなどが存在します。

歴史

国家公認教会への改宗を拒んだ古儀式派教徒は、当初は税金の増徴などの措置を受けましたが、次第に拷問や処刑を含む厳しい迫害にさらされるようになりました。そのため、彼らはウクライナ、シベリア、ロシア極東、ポーランド、バルト三国、ルーマニア、トルコ、中国などに逃れました。

ピョートル1世の時代には特に激しい迫害が行われましたが、エカテリーナ2世の時代には緩和されました。しかし、政府による主流派ロシア正教会への改宗促進策は続けられました。

1905年、ニコライ2世は、古儀式派を含む主流派ロシア正教会以外の諸宗派の活動を公認しました。しかし、ソビエト連邦成立後も迫害は続き、レーニンの妻ナデジダ・クルプスカヤは「富農階級との闘争とはすなわち古儀式派との闘争である」というテーゼを打ち出し、多くの古儀式派信徒が犠牲となりました。

迫害と飢餓により、ソ連時代にも海外への移住が続き、中国、アメリカ、ブラジル、ボリビア、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、日本などへ古儀式派は移住・再移住しました。

現在の古儀式派

現在、古儀式派の共同体は、ロシア、ベラルーシ、ラトビア、リトアニア、エストニア、モルドバ、ウクライナ、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタン、アルメニア、グルジア、ポーランド、ルーマニア、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、ブラジル、ボリビア、ドイツ、ウガンダ、パキスタンなどに存在しています。日本にも函館やサハリンにコミュニティが形成されました。

近年、古い奉神礼の形式や聖歌の研究において、古儀式派とロシア正教会が協力する場面も見られるようになり、双方向の交流が盛んになっています。また、アルタイ地方の首都バルナウルには、古儀式派の教会が建設されています。

古儀式派の研究

古儀式派は、ロシアの歴史と文化において重要な役割を果たしてきました。その信仰、文化、歴史は、多くの研究者によって研究されています。

川又一英: ビザンティン・ロシア思索の旅、イコンの道-ビザンティンからロシアへ
黒川知文: ロシア・キリスト教史
阪本秀昭, 伊賀上菜穂: 旧「満州」ロシア人村の人々―ロマノフカ村の古儀式派教徒
下斗米伸夫: 二つのロシア古儀式派・ナショナリズム・国家、日露戦争と古儀式派一九〇五年革命再考、図説　ソ連の歴史、ロシアとソ連　歴史に消された者たち　古儀式派が変えた超大国の歴史
塚田力: 古儀式派の復活　グローバルなネットワーク
中村喜和: 聖なるロシアを求めて――旧教徒のユートピア伝説、遠景のロシア――歴史と民俗の旅、聖なるロシアの流浪

これらの文献は、古儀式派の歴史、信仰、文化を理解するための貴重な資料となります。

まとめ

古儀式派は、ロシアの伝統的な信仰を守り続けてきた人々です。その歴史は迫害と苦難の連続でしたが、信仰を守り抜き、世界各地にコミュニティを築き上げました。現代においても、古儀式派はロシアの文化と信仰の多様性を象徴する存在として、重要な役割を果たしています。

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