土師氏

土師氏：古代日本の葬送儀礼と技術を担った豪族

土師氏（はじうじ/はじし）は、古代日本において重要な役割を果たした豪族です。その起源は、天穂日命の後裔と伝わる野見宿禰に遡るとされています。日本書紀には、野見宿禰が殉死者の代替物である埴輪を発明し、第11代垂仁天皇から「土師職（はじつかさ）」と土師臣姓を賜ったという記述があります。

古墳時代における土師氏

4世紀末から6世紀前期にかけて、土師氏は出雲、吉備、河内、大和を中心に活躍しました。主な活動は、古墳の造営と葬送儀礼に関連する技術と労務の提供でした。当時、大規模な古墳の築造は高度な土木技術を必要としたため、土師氏のような専門的な技術を持つ氏族の存在は不可欠だったと考えられます。

河内土師氏の本拠地と氏寺

大阪府藤井寺市、三ツ塚古墳を含む道明寺周辺は、河内土師氏の本拠地であったとされています。道明寺には、7世紀中頃～後半に創建された土師氏氏寺があり、後に天満宮として発展した道明寺天満宮も、元々は土師氏氏神を祀る土師神社でした。このことは、土師氏が地域社会において強い影響力を持っていたことを示しています。

広がる土師氏のネットワーク

土師氏の勢力の広がりは、考古学的資料からも確認できます。備前国邑久郡土師郷からは、飛鳥京跡苑池遺構出土の木簡に「大伯郡土師里土師・寅米一石」という墨書が発見されており、この地にも土師氏が居住し、朝廷への貢納を行っていたことがわかります。

野見宿禰と埴輪発明の伝承

土師氏の祖先とされる野見宿禰は、『日本書紀』に力自慢の当麻蹶速との相撲、そして埴輪の発明者として登場します。相撲の逸話では、野見宿禰が当麻蹶速を倒し、その土地を賜ったと記されています。一方、埴輪発明の伝承では、垂仁天皇の皇后の葬儀の際に、生きた人身御供の代わりに埴輪を製作したとあります。

しかし、考古学的研究からは、埴輪の起源は吉備国の特殊器台や特殊壺にあり、野見宿禰の発明という伝承は後世の創作の可能性が高いとされています。形象埴輪が出現するのも古墳時代中頃以降であり、用途も殉死の代替ではなく、首長の生前の業績や儀礼を顕彰するものと考えられています。

律令制下における土師氏

律令制下では、土師氏は諸陵司（天平元年に寮に昇格）に多数の役職者を輩出し、天皇や皇族の喪葬儀礼を担いました。殯宮（もがりみや）の造営などもその業務に含まれていました。しかし、彼らの活動は喪葬儀礼に限らず、軍事動員や外交儀礼にも及んでおり、新羅使対応や遣唐使送使などの任務にも携わっています。さらには、地方の国司の主典として任官するなど、多様な分野で活躍しました。

土師氏とその後の展開

奈良時代後期になると、土師氏は喪葬儀礼から離れ、より多様な官職に就くようになります。続日本紀によれば、桓武天皇の母方の祖母である土師真妹は山城国出身の土師氏でした。彼女の娘である高野新笠は桓武天皇と早良親王の母となり、土師氏一族は桓武天皇から冠位を賜り、河内土師氏、秋篠氏、菅原氏、大枝氏（後の大江氏）などに分かれていきました。

結論

土師氏は、古代日本の古墳時代から奈良時代にかけて、葬送儀礼や土木技術の中核を担った重要な豪族でした。その活動は、技術面のみならず、政治、軍事、外交など多岐に渡っており、日本の歴史において大きな役割を果たしたと言えるでしょう。野見宿禰を祖とするという伝承は考古学的な裏付けがないものの、土師氏の存在そのものと、その技術や政治的影響力は、歴史的事実に裏付けられています。

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