古田重二良

古田重二良：日本大学の発展と激動の時代

古田重二良（1901年6月23日 - 1970年10月26日）は、昭和期の教育者であり、特に日本大学（日大）の発展に大きく貢献した人物として知られています。日大の理事長、会頭を歴任し、大学のマンモス化を達成した一方で、大学闘争の当事者ともなりました。

生い立ちと初期のキャリア

秋田県秋田市で生まれた古田は、教職を志して秋田師範学校に入学しましたが、校長排斥運動に関与したため退学。その後、柔道部の先輩を頼り日大専門部法律科に進学します。学生時代は柔道部の主将として活躍し、1926年に日大高等専攻科法律学科を卒業後、日大高等工学校（現・理工学部）の職員兼柔道師範として勤務しました。

戦後の復興と大学経営

1945年、日大本部の事務長に就任し、戦後の日大復興に尽力。1949年には理事長に就任し、会頭の呉文炳を補佐しながら大学の財政基盤強化と研究の充実に力を注ぎました。古田は、教育と経営は一体であるという考えを持ち、私立大学は自主的な経営を行うべきだと主張しました。1951年に理事長を退任するも、同年には理事会長として復帰しました。

1956年、企画委員会総会で、古田は「今日の内外の情勢と大学のあり方」をテーマに、大学の使命の重要性が増していると指摘しました。世界の情勢が変化する中で、大学は研究と教育の最高の場であり、その役割は世界的に重要になっていると訴えました。

1958年、古田は呉の後を継いで日大会頭に就任。総長の永田菊四郎と二人三脚で、世界的な総合大学を目指しました。そのために、大学の改善方策案を掲げ、教育内容の拡充、組織の拡大、マスプロ教育の推進などを打ち出しました。また、学生運動に対しては学内での政治活動を制限し、教授陣の強化や研究助成制度の創設など、大学の組織改革を進めました。

日大の拡大政策と「日大の帝王」

古田は日大の各学部の独立採算制を導入し、附属校・準附属校の増設を推進しました。戦時中に縮小していた日大の組織規模を拡大し、分散していた学部を統合しました。1952年には両国国技館を買収して日大講堂とし、1959年には創立70周年記念式典を挙行しました。

また、学部・学科の新増設にも力を入れ、文理学部、農獣医学部、商学部、生産工学部などを新たに設置しました。さらに、湯川秀樹を顧問に迎え、世界的な研究者を招聘するなど、教育・研究体制の強化を図りました。高度経済成長を見据え、理系学部の拡充に注力し、大学の定員を増やす一方、系列校を増やして学生の確保に努めました。

1957年に32億円だった日大の収入は、1968年には約10倍の300億円に達しました。この結果、日大は日本最大のマンモス大学へと成長しました。しかし、その一方で学費の値上げや教育環境の悪化も招きました。

日大紛争と晩年

古田の拡大政策は、学費の高騰や学生運動の制限に対する不満を招き、1968年には日大紛争（日大闘争）が勃発。学生たちは「打倒古田」を叫び、大学全体を巻き込む抗議活動を行いました。古田は日大全共闘から激しい糾弾を受け、会頭を辞任。その後、日大会長に就任しましたが、日大紛争の責任を問われる形で、1970年に肺がんで亡くなりました。

その他の活動と人物評

古田は、秋田短期大学（現・ノースアジア大学）の初代理事長も務めました。また、財団法人日本会を創設し、佐藤栄作を総裁に、自身は会長に就任しました。日本[[私立大学連盟]]の常務理事や私立学校審議会の会長なども歴任しました。

古田の人物評として、日大の同級生であった池田正之輔は、「秋田犬のように噛み付いたら離れない人並みはずれて執念深い性格の持ち主」と評しています。また、日本私学振興財団初代理事長の永沢邦男は、「戦後の私学人のなかで、日大の古田さんくらい金を集めることが上手で、私学のためこの人ほど金を使った人はいない」と語っています。

功績と負の側面

古田は、日大を戦前・戦後におけるエリート層のみが進学できる教育機関から、大衆が目指せる大学へと転換させました。また、産業界のニーズに応える形で、学部・学科の新増設も行いました。しかし、その一方で、日大紛争（日大闘争）を通じて、教育環境の悪化やマスプロ教育の負の側面も露呈しました。また、学部間の対立を引き起こし、日大内部での利権争いや派閥争いを激化させました。アカデミズムよりも法人としての利益を優先する姿勢に対しては、日大内部でも評価と批判が分かれています。

文明観と総合大学院構想

古田は、科学の進歩による物質文明の弊害、思想的混沌、イデオロギーの対立を解決するためには、精神的・宗教的な研究も行う必要があると考えていました。そのため、原子力研究所、精神文化研究所、総合科学研究所を設置し、「物心一如の総合的研究」を行う総合大学院構想を抱いていました。原子力研究所（現：日本大学量子科学研究所）と精神文化研究所（日本会）は実現しましたが、総合科学研究所は、日大闘争によって古田の生前に実現することはありませんでした。しかし、古田の死後、2005年に大学院総合科学研究科が開設されています。

古田重二良は、日大の発展に貢献した一方で、その拡大政策が日大紛争を引き起こす要因ともなりました。彼の功績と負の側面は、今日の大学経営を考える上で重要な教訓となっています。

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