台北稲荷神社

台北稲荷神社の概要

台北稲荷神社は、日本統治時代の台湾、台北市西門町に存在した稲荷神社です。この神社は、東京の羽田にある穴守稲荷神社の分社として設立され、旧社格は郷社、祭神は豊受姫命でした。

祭神と信仰

祭神は豊受姫命であり、稲荷神社であることから倉稲魂命と誤解されることもありますが、穴守稲荷神社からの勧請であることや、当時の新聞記事からも、豊受姫命が正しい祭神です。

また、天照大御神、明治天皇、乃木希典を合祀し、社名を台北神社に変更して台北市の総氏神とする計画も存在しましたが、実現には至りませんでした。しかし、例祭などの祭典には官公庁関係者が出席し、台北市の火事除祈祷も行われるなど、台北市民からの信仰を集めていました。特に市街地にあったため、郊外の台湾神宮よりも日本人を中心とした人々に親しまれていました。この立地から、台湾神社や伊勢神宮の大麻暦の頒布も行われていました。

創建までの経緯

1910年（明治43年）3月20日、台北市粟倉口街（現在の桂林路、華西街、環河南街一帯）の豊川稲荷分院内に祀られていた穴守稲荷の分社を西門市場に移したのが始まりです。穴守稲荷神社は東京周辺で信仰を集めており、台湾に移住した日本人商人の間でも商売繁昌の神として崇敬されていました。

同年4月1日、穴守稲荷神社から正式な分霊の承認を受け、台湾総督府から寄付金集めの許可を得ます。同時期に台湾神社が修繕を行っていたため、台湾神社の古材の払い下げも申請しました。同年11月下旬から基礎工事が始まり、元々墓地であった場所を掘り起こして整地し、11月29日に地鎮祭が執り行われました。

社号改称と鎮座祭

1911年（明治44年）2月11日、上棟祭が行われるとともに、「穴守稲荷神社」から「台北稲荷神社」に改称されました。社号改称の理由は、穴守という名称が台北市に不適当であること、そして台北市民が信仰対象とすることでした。当初、3月1日に鎮座祭を行う予定でしたが、発起人側の都合で6月に延期されました。総工費1万円（現在の貨幣価値で数千万円）は民間からの寄付で賄われ、400坪の境内地に無節の檜を用いて本殿、拝殿、社務所の3棟が建てられました。

同年6月24日に鎮火祭・新殿祭、翌25日には鎮座祭・奉祝祭が執り行われました。本来、鎮座祭と奉祝祭は別の日に行われますが、炎暑の中での負担を考慮し、午前中に鎮座祭、午後に奉祝祭という形に変更されました。

同年10月22日には、寄付金などの関係から民間で管理していた神社を台北庁へ引き渡し、以降は台北庁が管理することになりました。例月の1日、15日の祭日の他に、25日を遷座記念祭日として祭日としました。

創建後

1916年（大正5年）1月15日、台北庁長などが出席し、台北市の火事除祈祷が行われました。1926年（大正15年）12月20日には、祭神増祀と社号改称の申請が行われました。1937年（昭和12年）10月20日には、台湾で最初の郷社に列格し、翌1938年（昭和13年）6月25日に例祭と郷社列格奉祝祭が斎行されました。

1945年（昭和20年）5月31日、台北大空襲により被災し、終戦後も神前式などを行っていましたが、中華民国政府の[[台湾への移転]]に伴い廃絶しました。

脚注・参考文献

台湾日日新報（1910-1944年）
蔡錦堂『台湾における宗教政策の研究：一八九五 - 一九四五』同成社、1994年。
林承緯 (2013-11-4). “臺北稻荷神社之創建、發展及其祭典活動”. 臺灣學研究 (國立臺灣圖書館) (15): 35-66.
陳飛豪 (2021-3-26). 史詩與絶歌　以藝術為途徑的日治台灣文史探索. 風月襟懷文化事業有限公司

関連文献

台湾社寺宗教要覧 台北州ノ巻（台湾社寺宗教刊行会編、1933年）
台湾に於ける神社及宗教 昭和14年度・昭和18年度（台湾総督府文教局社会課編、1939年・1943年）

関連項目

台湾の神社
穴守稲荷神社 - 東京にある本祀。
* 顕幽神社 - 戦後北海道へ引き揚げた関係者によって設立。

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