史略

『史略』:南宋を代表する史書目録



『史略』は、南宋時代の高似孫によって宝慶元年(1225年)に編纂された、6巻からなる史書目録です。中国では既に散逸してしまっているため、日本に現存するものが唯一の貴重な資料となっています。特に、国立公文書館が所蔵する宝慶年間刊本は、その歴史的価値から重要文化財に指定されています。代後期には『古逸叢書』や『後知不足斎叢書』に収録され、中国国内でも改めて知られるようになりました。

著者:高似孫とその学問



著者の高似孫は、を続古といい、明州鄞県(現在の浙江省寧波市海曙区)出身です。父の高文虎は翰林学士を務めた人物であり、『天官書集註』(現存せず)などの著作を残しています。高似孫自身も多くの著作を残したと伝えられていますが、現在まで伝わっているのは『史略』と『子略』の2つの目録のみです。『経略』『集略』といった目録も存在したと推測されていますが、現存はしていません。

『史略』の構成と内容



『史略』は6巻から成り、各巻は異なる種類の史書を網羅しています。

巻1:『史記』とその関連文献、そして『史記』に対する様々な評価を収録
巻2:『漢書』から『旧五代史』『新五代史』までの正史とその関連文献
巻3:『東観漢記』や編年体史書、実録などの史料
巻4:二次的に作成された史表、史略、史評、そして『資治通鑑』
巻5:覇史、雑史(『十六国春秋』『戦国策』を含む)、歴代宮廷の蔵書目録
巻6:『山海経』『世本』『三蒼』『漢官』『水経』『竹書』(汲冢書)といった特殊な種類の史料

このように、『史略』は多様な種類の史書を網羅的に収録している点が大きな特徴です。当時存在した史書の全体像を把握する上で非常に重要な手がかりとなる資料といえます。

『史略』に対する評価:賛否両論



『史略』に対する評価は、時代や研究者によって大きく異なります。楊守敬は、歴史書の分類においては劉知幾の『史通』が既に包括的な体系を構築しており、『史略』はその範囲を超えていないこと、また作成が急ぎ過ぎたために誤りが多いこと、さらに同著者の『子略』『緯略』に比べて質が劣ると批判しました。

一方、内藤湖南は『史略』を高く評価しています。「支那目録学」において、内藤は『史略』が鄭樵の影響を受けながらも、書物の内容に注意深く検討を加え、様々な研究者の成果を統合することで独自の視点を提示しようとしたと指摘しました。特に、逸書に関する記述においては、類書の記述を参考にするなど、王応麟や考証学の先駆をなす優れた取り組みであると絶賛し、楊守敬の批判を退けました。

現存資料とデジタルアーカイブ



現在、『史略』は日本国内にのみ現存しており、その貴重な史料的価値は改めて強調されるべきでしょう。国立公文書館には宝慶年間刊本のデジタルアーカイブが存在し、誰でも閲覧することが可能です。また、『古逸叢書』本もデジタル化されており、インターネット上で確認できます。これらのデジタルアーカイブは、研究者のみならず、広く一般の人々にとっても、貴重な歴史資料にアクセスする機会を提供しています。

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