司馬亨太郎

司馬 亨太郎（しば こうたろう）

文久3年1月7日（1863年2月24日）、長崎県平戸にて、医学者であり語学者としても知られる司馬凌海の長男として生を受けました。父の影響もあり、司馬亨太郎はドイツ語学の道に進むことになります。

教育者としてのキャリアは、明治16年（1883年）に山口中学校の教諭となったことから始まります。その後、日本のドイツ語教育の中心的な存在であった獨逸学協会学校の教諭を務めました。さらに、陸軍大学校では教授として、当時の日本にとって重要であったドイツの軍事に関する知識や語学を指導しました。この間、皇太子（後の大正天皇）のドイツ語教育を担当する東宮御用掛も拝命するなど、その語学力と教育手腕は高く評価されました。また、学習院教授や逓信官吏練習所教官など、多岐にわたる教育機関で教鞭をとりました。

特に、獨逸学協会との関わりは深く、教諭を経て、昭和4年（1929年）には第8代の獨逸学協会中学校長に就任しました。また、理事としても学校運営に携わり、長年にわたり日本のドイツ語教育の振興に尽力しました。

家族としては、著名な父・司馬凌海を持つことに加え、妹の喜多文子は能楽シテ方喜多流宗家である14世喜多六平太の妻となった囲碁棋士です。妻も旧士族である巌崎健造の娘であり、学問や芸術、旧士族といった多様な背景を持つ家庭環境にありました。

司馬亨太郎はドイツ語学者として、また教育者として多くの著作を世に残しています。軍事関連では、『野外要務令問答』や日本初とされる和独の兵語辞書『和独兵語辞彙』、『巴爾克戦術書』などを著し、当時の軍事関係者にとって不可欠なドイツ語資料を提供しました。語学書としては『実用独逸文法書』があり、広く学習者に利用されました。また、医学者であった父の影響か、『海浴要覧』といった健康・衛生に関する書物も手がけています。さらに、翻訳小説として『黄金村』を刊行するなど、その関心は学術分野にとどまらず、文芸にも及んでいました。これらの著作は、当時の社会におけるドイツ語の重要性や、彼の幅広い学識を示すものと言えます。

国家への貢献も認められ、栄典として複数の勲章を受章しています。明治35年（1902年）には勲五等瑞宝章、明治39年（1906年）には勲四等旭日小綬章と明治三十七八年従軍記章を授与されました。また、位階は正五位に叙せられています。

昭和11年（1936年）2月11日、東京帝国大学病院にて74歳でその生涯を閉じました。彼の墓碑は、東京都港区にある青山霊園に「司馬家・小池家」として現存しており、今もその功績を偲ぶことができます。司馬亨太郎は、激動の時代においてドイツ語学と教育を通じて、日本の近代化に大きく貢献した人物と言えるでしょう。

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