吉和村

吉和村

吉和村（よしわむら）は、かつて広島県西部に位置していた自治体です。中国山地の西部に広がる山あいの村として知られ、行政区分としては佐伯郡に属していました。現在は、周辺市町村との合併を経て誕生した廿日市市の北部にあたる、現在の廿日市市吉和地区にその名残を留めています。

村の成り立ちと歴史

この地域は、明治維新を迎える以前から単一の村として存在していました。特筆すべきはその後の歩みであり、1889年（明治22年）4月1日に日本の近代的な地方自治制度である町村制が施行されて以降も、吉和村は他の自治体との合併を選ぶことなく、およそ1世紀以上にわたり単独での村政を維持し続けました。これは、当時の日本の多くの町村が合併を繰り返して規模を拡大していった中で、非常に珍しい事例といえます。

しかし、高度経済成長期以降、地方の山間部例にもれず、吉和村でも人口の流出が著しくなり、過疎化が深刻な問題となりました。村の人口は減少し続け、広島県内の自治体の中では最も人口の少ない村となっていました。

長い単独村政の歴史に終止符が打たれたのは、2003年（平成15年）3月1日のことです。この日、吉和村は南に隣接していた佐伯郡佐伯町と共に、当時の廿日市市へ編入合併され、自治体としての歴史に幕を下ろしました。

地理と自然

吉和村は、中国山地の懐に深く入り込んだ典型的な山村です。村域には、

冠山（標高1,339.0m）
十方山（標高1,318.9m）
広高山（標高1,271m）
立岩山（標高1,091.4m）
女鹿平山（めがひらやま、標高1,082.5m）

といった標高1000メートルを超える山々が連なり、豊かな自然環境が保たれています。また、広島県を代表する一級河川である太田川の源流部もこの地域に位置しています。

気候に関しては、地域としては瀬戸内海に面する山陽地方に含まれるものの、中国山地の内陸部に位置するため、日本海側気候の特徴を色濃く持ちます。冬は寒さが厳しく、降雪量が多いため、国が定める豪雪地帯対策特別措置法に基づく「豪雪地帯」の指定区域に含まれており、その最南端にあたります。

地域内の施設と名所

自然豊かな吉和村には、多くの人が訪れる名所や施設が点在していました。

広大な敷地を持つ「もみのき森林公園」
清流と緑が織りなす「東山渓谷」
静かな環境でリラックスできる「潮原温泉」
様々な施設を備えたレジャーランド「魅惑の里」
高原リゾートとして知られる「冠高原」
温泉と宿泊施設がある「女鹿平温泉」
近代美術などを収蔵展示する「ウッドワン美術館」
冬期には多くのスキー客で賑わう「めがひらスキー場」

これらの施設は、村が消滅した現在も、廿日市市吉和地区の重要な観光・レジャー資源として活用されています。

交通網（編入直前時点）

村が廿日市市に編入される直前の2003年（平成15年）2月28日時点における交通状況は以下の通りです。

鉄道駅は村内に存在せず、鉄道を利用する際の最寄り駅は、JR西日本の山陽本線にある宮内串戸駅でした。バス路線については、広電バスが廿日市市役所前（平良）から津田を経由して吉和車庫まで運行されていましたが、これは2019年（平成31年）1月27日までの運行となり、翌日からは佐伯町内より先の一部区間が廿日市市自主運営バス「吉和さくらバス」に移管されています。また、地域内の移動手段としてデマンドバスも運行されていました。高速バスについては、中国自動車道の吉和バスストップに石見交通が運行する広益線が停車し、島根県益田市と広島市中心部を結んでいました。

道路網としては、中国自動車道が村域を通過しており、吉和インターチェンジ（国道186号に接続）や吉和サービスエリアが設けられていました。一般国道は国道186号、国道434号、国道488号が通っていました。主要地方道は村内を通過していませんでしたが、一般県道としては広島県道296号吉和戸河内線がありました。広島県道471号所山潮原線は、村の消滅時点では全線が区域未決定でしたが、その翌年に区域が決定しています。

教育機関（編入直前時点）

村が編入される直前には、村立の小中学校がそれぞれ存在していました。

吉和村立吉和小学校
* 吉和村立吉和中学校

その他

吉和村からは、タレントで元LinQのメンバーである深瀬智聖さんなど、著名な人物も輩出されています。吉和村の歴史や合併に関する詳細な情報は、廿日市市・佐伯町・吉和村合併協議会の資料などで確認することができます。

吉和村がかつて歩んだ歴史は、現在の廿日市市吉和地区へと引き継がれ、豊かな自然環境や地域コミュニティは今も大切にされています。

もう一度検索