名演小劇場

名演小劇場：名古屋のミニシアターの灯、その終焉

名演小劇場（めいえんしょうげきじょう、Meien Cine Salon）は、愛知県名古屋市東区東桜に位置した、地域に愛された映画館（ミニシアター）でした。元々は劇場としてスタートし、映画館に改装された後も、演劇公演を継続して行うなど、多様な文化を発信する場として親しまれていました。

歴史

その歴史は、1972年の名演会館ビル完成、そして劇場の開館から始まります。

1972年（昭和47年）：名演会館ビルが完成。劇場「名演小劇場」が開館。
2003年（平成15年）：本格的な映画館として「名演小劇場」がリニューアルオープン。
2004年（平成16年）：スクリーンを増設し、2スクリーン体制へ。
2023年（令和5年）3月23日：惜しまれつつ休館。
2023年（令和5年）11月29日：閉館。

劇場としての歩み

1954年（昭和29年）、名古屋初の自主的演劇鑑賞組織である名古屋演劇同好会（名演）が発足しました。当時は演劇公演を主催する商業劇場が少なかったため、鑑賞団体が劇団と交渉して公演を企画するのが一般的でした。1968年（昭和43年）には、名演の会員数は9,258人と過去最高を記録しました。

1966年（昭和41年）に中日劇場が開場し、名鉄ホールと共に新劇の興行を始めると、劇団が直接商業劇場と交渉するようになり、演劇鑑賞団体の立場は変化していきました。

名演は、中日劇場や名鉄ホールなどを使用して演劇公演を企画していましたが、かねてから自前の劇場を望んでいました。そして1972年（昭和47年）1月9日、総工費8,500万円をかけて名演会館ビルが完成。4階から5階には、固定座席150席、補助席50席の計200席を持つ名演小劇場が開場しました。これは、全国の演劇鑑賞組織として初の試みでした。

名演会館ビルの建設には、千田是也、杉村春子、宇野重吉など、当時の演劇界の重鎮が名を連ね、全国の演劇関係者や地元劇団が協力しました。名演主催の舞台公演が中心でしたが、合間には映画興行も行われました。

しかし、1960年代後半以降、商業劇場の発展とともに鑑賞組織は衰退。1973年（昭和48年）には、名演の会員数はピーク時の半分以下に減少しました。1979年（昭和54年）には桂小つぶが初舞台を踏み、『名古屋演劇フェスティバル』の第1回大会も開催されましたが、1980年代以降は、上演劇団の固定化、観客層の高齢化、公共ホールの建設、財政難などの問題を抱えるようになりました。それでも、1985年（昭和60年）には小栗康平監督の『伽倻子のために』、1986年（昭和61年）には『アモク!』や神山征二郎監督の『春駒のうた』などが上映され、映画ファンに感動を与えました。

映画館としての新たな挑戦

21世紀に入ると、シネマコンプレックスの台頭や中心市街地の再開発、小劇場の増加により競争が激化しました。そのような状況の中、2003年（平成15年）2月、名演小劇場は1スクリーン（サロン1）の映画館としてリニューアルオープンしました。2004年（平成16年）には、49席のスクリーン（サロン2）が増設され、2スクリーン体制となりました。

名演小劇場は、他の映画館が躊躇していた是枝裕和監督の『誰も知らない』を上映し、柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞したこともあり、ミニシアターとしては異例の2万人近い観客を動員する大ヒットを記録しました。上映中には、柳楽と是枝監督が舞台挨拶に訪れるなど、ファンにとっては忘れられない出来事となりました。映画上映が中心となりましたが、年間7回は演劇公演も行われ、劇場時代の面影を残していました。

コロナ禍、そして閉館へ

2020年（令和2年）には、新型コロナウイルス感染症の拡大により一時休館を余儀なくされました。2022年（令和4年）1月に開館50周年を迎えましたが、物価高騰や個人消費の停滞による経済状況の悪化、建物・設備の老朽化などが重なり、2023年（令和5年）2月8日に休館が発表されました。

同年3月23日、『ジェラール・フィリップ 最後の冬』の上映をもって最終興行を迎えました。閉館後、短期間の上映会や試写会の会場としての活用が検討され、同年7月にはドキュメンタリー映画『Yokosuka1953』の上映会が開催され、ナレーターを務めた津田寛治も来館しましたが、その後目立った動きはなく、同年11月29日に正式に閉館が発表されました。

51年間の歴史に幕を閉じた名演小劇場。建物は2024年（令和6年）2月から解体され、同年6月頃までに駐車場となりました。1960年（昭和35年）には5つの映画館があった名古屋市東区から、また一つ、映画文化の灯が消えました。

データ

所在地：愛知県名古屋市東区東桜2-23-7
アクセス：名古屋市営地下鉄 栄駅、新栄町駅、高岳駅から徒歩約10分
座席数：サロン1: 105席、サロン2: 49席
* 支配人：島津秀雄（2003 - ）、阿部勇司（ - 2023）

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