呂坤

呂坤（りょ こん）

呂坤（1536年 - 1618年）は、明代に活躍した儒学者、思想家です。字は叔簡、雅号として新吾、抱独居士、沙随夫子、去偽斎などを用いていました。彼の出身は帰徳府寧陵県です。

生涯

幼少期の呂坤は、学問の飲み込みが悪く、文章をただ読むことさえ困難な状況でした。しかし、彼はただ漫然と読み進めるのではなく、心を落ち着けて内容を深く理解することに重点を置く学習法を編み出しました。この「澄心体認」という方法によって、15歳になる頃には五経を全て読破するまでに成長しました。特に、彼は性理学のような哲学的な書物を好んで学んだとされています。

36歳になった隆慶5年（1571年）には、科挙の会試に合格を果たしましたが、その直後に母親を亡くし、喪に服すために故郷へ帰ることになりました。その後、万暦2年（1574年）に39歳で殿試に合格し、進士として官僚の道を歩み始めます。彼は襄垣県の県令に任命され、その地が統治の難しい場所であったにも関わらず、優れた行政手腕を発揮しました。その功績が認められ、万暦4年（1576年）には大同県の県令に転任しました。ここでは、横暴な地元の有力者を抑え込み、厳正な政治を行ったと伝えられています。

万暦6年（1578年）には中央に召還され、吏部主事に抜擢されました。その後、山東参政、山西按察使、陝西右布政使、右僉都御史・山西巡撫と順調に昇進を重ね、万暦22年（1594年）には刑部左侍郎の地位にまで上り詰めました。

しかし、当時の明王朝は、満洲で勢力を拡大していた愛新覚羅氏の台頭により、辺境の情勢が不安定になり、内政も混乱していました。呂坤はこの状況を深く憂慮し、現状を打破するために率直な意見を皇帝に進言しましたが、役人たちからの讒言や中傷に遭い、彼の意見は聞き入れられませんでした。そのため、彼は病気を理由に官職を辞し、故郷で儒学の研究と教育に専念する道を選びました。

呂坤は、宇宙の根源を「気」であると考え、天地万物は気の集散によって生じると説きました。彼は、朱熹が提唱した理気二元論を「二物説」として批判し、独自の宇宙観を打ち立てました。

彼の代表作である『呻吟語』は、官職を辞した後、30年もの歳月をかけて万暦21年（1593年）に完成させた処世哲学書です。その他にも、『四礼疑』、『四礼翼』、『交泰韻』、『閏範』、『実政録』、『去偽文集』などの著書が残されています。

万暦46年（1618年）、呂坤は83歳でその生涯を閉じました。

思想

呂坤の思想は、当時の主流であった朱子学の理気二元論を批判し、宇宙の根源を「気」とする独自の気一元論を展開しました。彼は、万物は気の集散によって生成し、その変化の中に道を見出すべきだと説きました。また、彼の思想は、現実の社会問題に対する関心を強く持ち、実践的な倫理観を重視する傾向がありました。

著作

• - 『呻吟語』：彼の代表作であり、処世哲学書として広く知られています。
• - 『四礼疑』
• - 『四礼翼』
• - 『交泰韻』
• - 『閏範』
• - 『実政録』
• - 『去偽文集』

参考文献

• - 安岡正篤『呻吟語を読む』致知出版社。ISBN 4-88474-173-0。
• - 安岡正篤『古典手抄』明徳出版社、ISBN 9784896191530
• - 公田連太郎訳註『呻吟語』明徳出版社、ISBN 978-4896191219

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