呉国楨

呉国楨（ご こくてい）

呉国楨（1903年 - 1984年）は、中華民国（台湾）の政治家であり、字は峙之。幼少の頃から神童と称され、卓越した才能を発揮しました。彼の生涯は、中国の激動期における政治の中枢で活躍した一方、晩年は政治的対立により故郷を離れることになった波乱に満ちたものでした。

初期の活動

呉国楨は、幼少期から神童と謳われ、3歳で塾に入り、5歳で北京の大興両級小学に入学しました。その後も学業に励み、1914年には天津南開中学に進学。ここでは周恩来が会長を務める「敬業楽群会」に加入し、周と親交を深めました。1917年には北京清華学校（現在の清華大学）に入学し、4年後に卒業するとアメリカに留学。アイオワ州のグリネル大学で経済学の学士号を取得後、プリンストン大学に進み、修士号を取得。1926年には博士論文「中国古代の政治理論」で哲学博士号を取得しました。この高度な学歴は、後の彼のキャリアを大きく後押ししました。

帰国後、呉国楨は上海政治学校で教官として教鞭をとり、その後、江蘇特派交渉員公署で秘書兼交際科長に任命されました。1928年には南京に移り、外交部第1司副司長兼条約委員会委員に就任。その後、漢口を訪れた際に、当時の武漢政治分会主席の李宗仁に財政・税制改革案を提出。この提案が評価され、呉は湖北煙酒納税務局長に抜擢され、税収を大幅に増加させるなど、その手腕を高く評価されました。1929年6月には漢口特別市政府の参事、土地局長、財政局長に任ぜられ、1931年5月には湖北省政府委員兼財政庁長に昇進しました。

漢口、重慶市長として

1932年6月、呉国楨は蔣介石の個人秘書として招聘されます。呉は電文や講話の原稿起草、情報・資料収集などでその有能さを示し、蔣介石の信頼を得ました。その後、江西省榷運局に異動し、塩税の整理にあたりますが、1933年11月には湖北省政府委員に復帰し、漢口市長に起用されました。市長として呉は、治水事業や公園建設に注力し、1935年の水害時には陣頭指揮を執り、被害の拡大を防止しました。日中戦争勃発後も漢口市長として軍の後方支援に尽力し、武漢陥落まで市民の避難を支援しました。

その後、呉国楨は重慶に移り、国防最高委員会政務処処長に抜擢され、9ヶ月後には重慶市長に就任しました。重慶は日本軍の空襲を度々受けましたが、呉が整備した防空壕などの効果で死傷者は軽減されました。しかし、1941年6月5日の空襲では、不備のある防空壕に避難した市民が多数窒息死するという悲劇も起こりました。この責任を取り、呉は辞表を提出しましたが、留任となりました。1942年12月には外交部政務次長に異動し、宋子文の戦時外交を補佐しました。当時、宋子文はアメリカに滞在していたため、呉が事実上、国内外の外交官僚を統率し、外交活動を支えました。

国共内戦、蔣父子との対立

1945年8月、呉国楨は中国国民党中央宣伝部長に異動し、翌1946年5月には上海特別市市長に就任しました。呉は戦後復興に尽力しましたが、国共内戦の勃発により財政は逼迫し、その手腕をもってしても崩壊を食い止めることはできませんでした。呉は金円券発行などの政策に反対し、蔣介石を諫めましたが、受け入れられず、度々辞表を提出しました。しかし、その能力が認められ、内戦末期の1949年5月まで市長を務めました。その後、呉は家族と共に台湾へ避難しました。

台湾では、1949年12月に台湾省政府主席兼保安司令に就任し、翌1950年3月には台湾省反共保民運動委員会主任委員に任ぜられました。さらに1952年10月には国民党中央常務委員に選出されました。呉は財政や税務の整理に尽力しましたが、次第に蔣介石・蔣経国父子の強権的な政治手法に反発するようになり、両者と対立しました。1953年5月に省政府主席を辞任した呉は、アメリカのイリノイ州に移住。以後、蔣介石父子の独裁体制を批判する言論を積極的に発表しました。その結果、1954年3月に中国国民党を除名されました。

1978年12月、中国が改革開放路線を開始すると、呉国楨はかつて親交のあった杜建時や周恩来の妻である鄧穎超の招きを受け、中華人民共和国建国35周年の際に帰国を計画しました。しかし、その願いは叶わず、1984年6月6日、ジョージア州サバンナで病没しました。享年82歳（満80歳）。

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