和与状

和与状（わよじょう）とは

和与状とは、当事者間での合意内容を記録した文書であり、特に財産や権利の移転、訴訟における和解の際に作成されました。この文書は、当事者間の合意を明確化し、後々の紛争を防ぐ役割を果たしました。

和与の種類と和与状

和与には大きく分けて二つの意味があります。

1. 贈与としての和与: これは、財産や権利を無償で他者に譲渡する行為を指します。自己の相続人への生前贈与や、寺社への寄進などがこれにあたります。この場合、和与状以外にも去状（避状）といった文書が用いられることもありました。
2. 和解としての和与: これは、訴訟当事者同士が和解し、訴訟を終結させる行為を指します。この和解に伴い、権利の移転や放棄が発生することがあります。訴訟における和解の場合、和与状が作成されることが一般的でした。

鎌倉幕府は、御家人の所領の安易な分散化を規制するために、親族への悔返権を強化したり、他人への贈与を制限したため、「贈与」としての和与状はあまり残っていません。現存する和与状の多くは、鎌倉時代以降に盛んになった訴訟における「和解」に伴って作成されたものです。

訴訟における和与状

鎌倉幕府の訴訟において、和与は奉行や中人と呼ばれる第三者の仲介によって行われました。和与が成立すると、当事者間で和与状が作成されました。

和与状の書式は概ね決まっており、最初に「和与」と記し、本文には和与の条件が詳細に記載され、最後に「仍和与之状如件（よって和与の状、件の如し）」と結ばれていました。和与状は通常2通作成され、当事者が互いに署名・捺印したものを交換するか、双方が署名・捺印したものをそれぞれが保管しました。さらに、和与状の裏面には、担当の奉行2名が「為後証所加署判也（後日の証拠のために署名・捺印を加える）」という文言とともに署名・捺印しました。これを「裏封（うらふう）」と呼びます。

さらに、訴訟機関は和与状の内容を承認する裁許状（和与裁許状）を発行し、訴訟は終結しました。これにより、和与は法的効力を持つことになりました。地方の訴訟や公家、寺社、荘園を巡る訴訟でも和与状は作成されました。

私和与と公的裁許

当事者間で訴訟機関に届け出ずに和与状を作成し、和与を行うことも可能でした（私和与）。しかし、訴訟機関が和与を承認し、裁許状を発行した場合には、私和与は無効とされました。訴訟機関の裁許は、和与状の内容実現を保証する重要な役割を担っていました。

訴訟が長期化すると、当事者だけでなく、担当の奉行にも大きな負担がかかりました。そのため、訴訟機関側からも和与による早期解決が望まれ、その結果、和与による解決が促進されるようになりました。

まとめ

和与状は、中世の紛争解決において重要な役割を果たした文書です。訴訟における和解だけでなく、財産の贈与においても作成され、当事者間の合意を明確化し、紛争を未然に防ぐ効果がありました。特に訴訟においては、和与状の内容が訴訟機関によって保証されることで、その法的効力が確立し、紛争の円満な解決に繋がりました。


参考文献
瀬野精一郎「和与状」（『国史大辞典 14』、吉川弘文館、1993年）
保立道久「和与状」（『日本史大事典 6』、平凡社、1994年）
* 高橋正彦「和与状」（『日本歴史大事典 3』、小学館、2001年）

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