哀章

哀章（あいしょう）

哀章は、中国の新代に生きた武将・政治家です。王莽に取り入り、その簒奪を正当化する符命を偽造したことで知られています。彼の生涯は、新の成立と滅亡、そして時代の激動を色濃く反映しています。

生涯

哀章は益州広漢郡梓潼県の出身で、元々は学問を志す徒でした。しかし、王莽に取り入るため、天命を伝える符命を偽造するという大胆な行動に出ます。この符命が王莽の皇帝即位を後押しする形となり、哀章自身も王莽から重用されることになります。

新王朝成立後、哀章は四輔の一人という重臣の地位に就きます。しかし、その後の彼は、反乱軍の討伐や洛陽の防衛といった軍事的な任務を担うことになります。王莽の死後、洛陽は更始帝の軍に攻め落とされ、哀章自身も捕らえられて処刑されるという悲劇的な結末を迎えます。

王莽即位への支援

哀章は長安で学問に励んでいましたが、その素行は決して良いとは言えませんでした。大法螺を吹くことを好み、周囲からは敬遠されていたようです。

当時の漢王朝は、皇帝が不在という異常な状態でした。幼い皇太子である劉嬰（孺子嬰）を擁立し、太皇太后の王政君とその甥である王莽が実権を握っていました。王莽は摂皇帝として政治を司っていましたが、その内心では帝位を狙っていると多くの人々が推測していました。そこで、王莽に取り入ろうとする人々は、王莽を帝位に就かせるための符命を次々と作り上げました。

哀章もまた、その一人でした。彼は密かに銅製の匱を作り、「天帝行璽金匱図」と「赤帝行璽邦伝予黄帝金策書」という二つの札を仕込みました。これらの札には、「王莽よ、真の天下となれ」といった文言や、王莽を補佐する11人の官僚の名前が記されていました。哀章は、この偽造された符命を高祖廟に持ち込み、王莽に献上しました。この符命が、王莽が簒奪を決意する上で大きな役割を果たしたと言えるでしょう。

新王朝での事跡

新王朝が成立すると、哀章は国将という重職に任じられます。しかし、その素行は以前と変わらず、清廉潔白とは程遠いものでした。他の重臣たちもまた、親族を軽んじるなど、問題のある行動が目立ちました。

地方では反乱が相次ぎ、新王朝は危機的な状況に陥ります。哀章は王莽に進言し、自らが反乱鎮圧の指揮を執ることを申し出ます。王莽はこれを受け入れ、哀章を東方へ派遣し、反乱軍との戦いに当たらせました。

しかし、戦況は好転せず、王莽は更始帝の軍によって討たれます。哀章は王匡（新）と共に洛陽を守備していましたが、洛陽も陥落し、哀章は捕らえられて処刑されました。

人物評価

哀章は、王莽の簒奪を助けた人物として、歴史的に評価が分かれる人物です。彼は、自らの野心のために符命を偽造し、王莽に取り入るという手段を選びました。その結果、新王朝の重臣という地位を得ましたが、最後は悲惨な結末を迎えます。

哀章の生涯は、時代の激動の中で、自己の利益を追求した人間の姿を浮き彫りにしています。彼の行動は、現代に生きる私たちにとっても、権力や地位に対する欲望、そして倫理観について深く考えさせられる教訓を与えてくれます。

参考文献

東晋次『王莽―儒家の理想に憑かれた男』（白帝社アジア史選書）、白帝社 、2003.10
渡邉義浩『王莽―改革者の孤独』（あじあブックス）、大修館書店、2012.12

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