国家保衛非常対策委員会

国家保衛非常対策委員会：韓国現代史の転換点

1979年10月26日、朴正熙大統領暗殺という衝撃的な出来事を契機に、韓国は未曽有の政治的混乱に陥りました。この混乱の中、全斗煥や盧泰愚らを中心とする新軍部勢力は、粛軍クーデターと非常戒厳令の拡大を経て、急速に権力を掌握していきます。そして、その権力基盤を確固たるものとするために設置されたのが、国家保衛非常対策委員会（国保委）です。

国保委は、1980年5月30日、戒厳令下において正式に発足しました。形式上は、大統領の諮問機関という位置づけでしたが、実際には、行政・司法を完全に掌握する超法規的な権力機関として機能しました。国政全般を牛耳り、新軍部による支配体制を構築するための強力なツールとなったのです。

国保委は、常任委員会を中心に運営されました。常任委員は、軍関係者や政府高官など30名で構成され、委員長には全斗煥が就任しました。この人事は、新軍部の国政掌握における全斗煥の圧倒的な中心性を象徴しています。

国保委は、明確な目標を掲げていました。それは、大きく分けて四つの柱からなります。第一に、安保体制の強化。第二に、深刻化する経済難局の打開。第三に、政治の発展と内容の充実。そして第四に、社会悪の一掃です。これらの目標を掲げることで、国民の支持を得ながら、強権的な政治運営を正当化しようとしたと見られます。

しかし、国保委による施策は、民主主義の原則からは大きく逸脱したものでした。国保委は、その超法規的な権力を背景に、民主化運動関係者や反対勢力を徹底的に弾圧しました。学生デモや労働争議への参加者を「背後操作」「扇動」の容疑で逮捕するなど、言論や集会の自由は著しく制限されました。

さらに、国保委は、既存の政治家や官僚への大規模な粛清も実行しました。維新体制で活躍した政治家には権力型不正蓄財の容疑をかけ、逮捕するケースが多発しました。また、中央情報部や政府機関、国営企業にいた多くの官僚や職員が解任され、その数は数千人に上りました。こうした粛清は、反体制勢力の排除と、新軍部への忠誠を誓う新たな官僚体制の構築を目的としたものでした。

言論統制も徹底的に行われました。マスメディアは強制的に統廃合され、情報操作が行われました。国保委は、国民の意見を封殺し、新軍部の意向を一方的に伝えるための強力なプロパガンダ機関として機能したのです。

こうした強権的な政治運営の結果、崔圭夏大統領は辞任に追い込まれ、1980年8月27日、統一主体国民会議において全斗煥が大統領に選出されました。そして、1980年9月1日、全斗煥は第11代大統領に就任し、第五共和国が成立します。

国保委は、第五共和国憲法の発効とともに、1980年10月27日にその役割を終え、国家保衛立法会議に引き継がれました。国保委は、韓国現代史において、民主主義の阻害要因としてだけでなく、第五共和国という新たな政治体制を樹立するための重要な転換期を象徴する存在であったといえるでしょう。その強権的な手法は、その後も韓国社会に大きな影響を与え続け、民主化運動や社会変革の原動力となりました。

国保委の活動は、韓国現代史研究において重要なテーマであり、民主主義と権力、そして国家と国民の関係について、深く考えさせられるものです。

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