聖職者服従法

聖職者服従法（1533年）

1533年にイングランドで制定された聖職者服従法は、国王ヘンリー8世によるイングランド国教会設立に向けた重要な一歩となる法律でした。この法律の成立は、ヘンリー8世がカトリック教会からの独立を図る過程で、国内の聖職者たちの権限を大幅に制限し、王権を強化するものでした。

法成立の背景

ヘンリー8世は、王妃キャサリン・オブ・アラゴンとの離婚を求めていましたが、ローマ教皇の反対により実現が困難な状況にありました。この行き詰まりを打開するため、ヘンリー8世は、国内の聖職者たちの権限を抑え、自らが教会の頂点に立つことを目指し、宗教改革を推し進める決意を固めました。

1529年に召集された宗教改革議会では、反聖職者の感情が高まっており、ヘンリー8世はこの機に乗じて教皇権と聖職者の特権を否定しようとしました。1530年には、離婚問題の責任を問われたトマス・ウルジーに対する教皇尊信罪を、イングランド国内の聖職者たちにも適用するという強硬手段に出ました。この罪は、ウルジーが教皇特使としての権限を行使したことを根拠としており、告発された聖職者会議は王に多額の賠償金を支払うことで赦免を願い出ました。こうして、聖職者たちは王に屈服することになりました。

1532年、ヘンリー8世は聖職者会議に対してさらなる圧力を加えました。側近のトマス・クロムウェルが起草した「教会裁判権に反対する庶民院の嘆願書」は、教会が独自の立法権を有し、王国と対立するような法律を制定している点を批判していました。王はこの請願を受け、聖職者会議に対して、今後は王の同意なしに立法を行わないことを要求しました。聖職者会議が抵抗すると、王はさらに態度を硬化させ、最終的に要求を呑ませ、立法権の放棄を表明する文書を提出させました（聖職者の服従）。

法の内容と影響

聖職者服従法は、これらの過程を経て、1534年に制定されました。この法律により、イングランド国内の聖職者は、国王の承認なしに法律を制定することができなくなり、教会の自律性は大きく損なわれました。これにより、王は教会法を自由に解釈することが可能となり、国内の聖職者の意向を無視して離婚を進めることができるようになりました。

この法律の制定は、イングランドのカトリック教会からの離脱を決定的にしました。1533年には上告禁止法が可決され、イングランドの教会がローマ[[教皇庁]]からの干渉を受けないことが定められました。ヘンリー8世は、上告禁止法制定前後の1533年にキャサリン・オブ・アラゴンとの離婚（婚姻の無効）を宣言し、アン・ブーリンと再婚しました。そして1534年には、聖職者服従法と同時に、第一継承法、反逆法、国王至上法が制定され、イングランドはカトリック教会から離脱し、イングランド国教会が創設されるに至りました。

まとめ

聖職者服従法は、ヘンリー8世が自身の離婚問題を解決し、王権を強化するために制定された法律であり、イングランドの宗教改革において重要な転換点となりました。この法律により、イングランドの教会はローマ教皇の支配から離れ、国王の権威の下に置かれることになり、その後のイングランドの歴史に大きな影響を与えることになりました。

参考文献

今井宏編『世界歴史大系 イギリス史2 -近世-』山川出版社、1990年。
松村赳・富田虎男編『英米史辞典』研究社、2000年。
* 陶山昇平『ヘンリー八世 暴君か、カリスマか』晶文社、2021年。

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