上告禁止法

上告禁止法（Statute in Restraint of Appeals）

上告禁止法は、1533年4月にイングランドで制定された法律で、ローマ[[教皇庁]]への宗教裁判に関する上告を禁止し、国内での問題解決を目的としています。この法律は、ヘンリー8世の離婚問題とそれに続く宗教改革の重要な転換点となりました。

法制定の背景

ヘンリー8世は、王妃キャサリン・オブ・アラゴンとの離婚とアン・ブーリンとの再婚を望んでいましたが、ローマ教皇クレメンス7世が離婚に反対したため、事態は膠着しました。アンの妊娠も重なり、ヘンリー8世は早期の離婚と再婚を必要としていました。そこで、側近のトマス・クロムウェルは、国王を支援し、教会から立法権を取り上げる策を講じました。

1532年、庶民院は国王に請願を提出し、これによりヘンリー8世は聖職者会議を脅迫し、イングランド国内の聖職者から服従を強制的に取り付けました。さらに、教会から立法権を奪い、国王が国内における最高の首長であり、宗教問題においても教皇より優越することを認めさせました。同時に、議会はローマ[[教皇庁]]の収入源であった司教からの上納金を遮断する初収入税上納禁止法を制定しました。

上告禁止法の成立

クロムウェルは、1532年9月から法案の起草を進め、1533年3月に議会に提出、同年4月に上告禁止法が成立しました。この法律の序文では、イングランドが「帝国」であり、王は俗界と聖界の両方で最高の司法権を持つと宣言されました。さらに、イングランドは教皇庁の管轄下にはないと明言され、国王の婚姻の有効性に関する問題も教皇庁の認可を必要としなくなりました。これは、イングランドが教皇庁から独立した国民国家となることを示す画期的な出来事でした。議会では親カトリック派の抵抗が予想されましたが、クロムウェルの周到な準備により反対は封じ込められました。

上告禁止法の制定は、キャサリンが教皇に上訴する道を閉ざし、離婚問題がイングランド国内で解決される見通しを立てました。1533年5月、カンタベリー大[[司教]]トマス・クランマーが主宰する法廷で、ヘンリー8世とキャサリンの離婚、そしてヘンリー8世とアンの結婚が宣言されました。この決定を認めなかった教皇庁はヘンリー8世を破門しましたが、イングランドの教皇庁からの離脱は加速しました。

その後の展開

1534年には、聖職者の服従を法制化した聖職者服従法、アンが産んだ娘エリザベス（後のエリザベス1世）を王位継承者とする第一継承法、これを承認しない者を反逆罪に問う反逆法、そして国王を最高の首長と明文化した国王至上法が成立しました。これにより、イングランドはカトリックから離脱し、プロテスタントの一派であるイングランド国教会が成立しました。一連の立法に尽力したクロムウェルは、その後の宗教改革でも活躍し、1536年から1539年にかけて修道院解散を主導しました。

上告禁止法は、イングランドの宗教改革と国家形成において、非常に重要な役割を果たした法律です。

参考文献

今井宏編『世界歴史大系 イギリス史2 -近世-』山川出版社、1990年。
塚田富治『政治家の誕生 近代イギリスをつくった人々』講談社（講談社現代新書1206）、1994年。
川北稔編『新版世界各国史11 イギリス史』山川出版社、1998年。
松村赳・富田虎男編『英米史辞典』研究社、2000年。
陶山昇平『ヘンリー八世 暴君か、カリスマか』晶文社、2021年。

関連項目

宗教改革
イングランド国教会
ヨーロッパにおける政教分離の歴史

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