国鉄キハ10系気動車

国鉄キハ10系気動車：日本の気動車技術の礎

国鉄キハ10系気動車は、1953年から製造された一般形気動車の一群です。厳密には「キハ10系」という系列呼称は存在せず、便宜的に10番台の形式名を持つ一連の気動車をまとめてこう呼びます。本稿では、特にキハ17形以降の量産車とその改造車について詳しく解説します。

開発の背景

第二次世界大戦後、国鉄ではキハ41500形やキハ42500形といったディーゼル動車が運用されていましたが、これらは総括制御ができない機械式気動車でした。輸送量の多い線区では、総括制御が可能な新型気動車の必要性が高まり、電気式と液体式の試作車を経て、液体式が量産されることになりました。

1953年10月、キハ45000形（後のキハ17形）をはじめとする一連の気動車が登場。運転台の数、便所の有無、エンジン搭載数などにより9形式728両が製造され、全国各地に投入されました。

キハ10系の革新性

キハ10系は、国鉄の量産形気動車として初めて液体式変速機を搭載し、複数車両の総括制御を可能にしました。この技術は、現代に至るまでの一般形気動車の運用形態の基礎を築き、車両の走行用機器や制御回路など、その基本構成は後の国鉄型気動車に広く受け継がれました。日本の鉄道技術史上、特筆されるべき存在と言えるでしょう。

各形式の詳細

キハ10系には、様々な形式が存在します。

キハ17形：便所付き片運転台車。最多両数が製造され、キハ10系の基幹形式となりました。
キハ16形：便所なし片運転台車。キハ17形に次いで多く製造されました。
キハ10形：便所なし両運転台車。北海道と四国を除く各地で使用されました。
キハ11形：便所付き両運転台車。寒冷地向け車両も製造されました。
キハ12形：酷寒地向け両運転台車。二重窓が特徴で、全車が北海道で使用されました。
キハ18形：便所なし中間車。運転台がなく、他の形式と連結して運用されました。
キロハ18形：2・3等合造車。一般形気動車では唯一の優等車で、便所・洗面所付きでした。
キハ50形：エンジン2基搭載の試作車。勾配線区向けに製造されました。
* キハ51形：キハ50形を基に量産された高出力車。本州の勾配路線で使用されました。

これらの形式は、各地の路線条件や輸送需要に合わせて柔軟に運用されました。

車体構造の特徴

キハ10系の車体は、軽量化のために車体幅が2603mmと、当時の一般的な電車や客車よりも狭く設計されました。これは、車両限界や乗降用ステップの設置などの制約によるものでもありました。

構体は、鋼板張りの屋根と床にも荷重を負担させる「張殻構造」を採用。側柱、垂木、台枠の横梁を同一面に配置した「シェル構造」とすることで剛性を確保しました。また、構体の各部にプレス材を使用することで、さらなる軽量化を図っています。

正面は貫通式運転室とし、編成中間の車両からも通り抜けられるようにしました。これにより、列車の増解結が容易になり、柔軟な車両運用が可能となりました。

塗装と内装

車体塗装は、導入当初は青3号と黄かっ色2号の塗り分けでしたが、後に朱色4号とクリーム4号の塗り分け（新一般色）に変更されました。さらに、1976年以降は朱色5号の1色塗り（首都圏色）も登場しました。

内装は、ベニヤ板に耐火塗料を塗布した当時としては一般的なものでした。座席はクロスシートを基本とし、座席間隔は1430mm（キハ10形、キハ50形は1450mm）を確保。初期の車両は全席クロスシートでしたが、後にラッシュ時の混雑緩和のため、一部がロングシートに変更されました。

暖房装置

当初はエンジンの排気ガスを利用した排気暖房方式でしたが、寒冷地では暖房能力が不足するため、1954年以降製造の寒冷地向け車両には、軽油燃料による独立した温気暖房装置が搭載されました。

主要機器

エンジンは、DMH17B形ディーゼル機関（160PS/1500rpm）を1基または2基搭載。液体変速機は、振興造機製TC2または新潟コンバーター製DF115が使用されました。これらの機器は車体床下に吊り下げられ、プロペラシャフトを介して台車の車軸に動力を伝達する構造でした。

改造と試験

キハ10系は、郵便・荷物車への改造や、DT22・TR51台車への交換、近代化改造など、様々な改造が施されました。また、過給機装備試験や空気ばね台車試験なども行われ、性能向上や乗り心地改善が図られました。

運用と終焉

キハ10系は、北海道から九州まで広範囲に配置され、無煙化に大きく貢献しました。キハ20系など大型車体の車両が増備されると、これらと混用されるようになり、様々な編成が見られました。

1977年から導入されたキハ40系により順次置き換えられ、旅客車は1981年度、郵便荷物車も1982年度に全廃となりました。

保存車両

一部の車両は、鉄道博物館やリニア・鉄道館などで保存・展示されています。また、地方私鉄に譲渡された車両の中には、動態保存されているものもあります。

キハ10系は、日本の気動車技術の発展に大きく貢献した車両であり、その功績は忘れることはできません。

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