国鉄キハ40000形気動車

国鉄キハ40000形気動車は、昭和時代初期に日本国有鉄道の前身である鉄道省が開発した機械式ガソリン動車です。鉄道省がガソリン動車の開発で私鉄や車両メーカーに後れを取っていた中、日本車輌製造設計による江若鉄道C4形などを参考に、国産ガソリンエンジンを搭載した軽量構造の16mガソリン動車キハ41000形を開発しました。

開発の経緯

キハ41000形は使用実績が好調だったため、鉄道省で初めて本格的に量産されたガソリン動車となりました。この実績を元に、キハ41000形の車体長を短縮し軽量化を図り、動力面に余裕を持たせ、その余力で貨車を牽引したり、勾配線区で運用する目的で開発されたのがキハ40000形です。

当時、地方鉄道では比較的強力なエンジンを搭載した気動車で客車や貨車を牽引する例が見られ、キハ40000形の開発は、ハードウェア設計だけでなく運用ノウハウも私鉄の先行事例に倣うものでした。

車体

車体設計は1933年度発注のキハ41000形41036以降を基本としており、車体長は15.5mから11.5mに短縮され、定員も109名から75名に減少しました。窓配置は1D(1)8(1)D1（D：客用扉、(1)：戸袋窓）で、戸袋窓部をロングシートとしたセミクロスシート車であることも共通しています。屋根には雨樋がなく、扉部のみ水切りが配されている点も同様です。前照灯は当時標準のLP42を前面の幕板部中央に1灯装着していました。

竣工時の塗装は、当時の客車や電車と同じくぶどう色1号で、三等車を表す赤帯は当初からありませんでした。その後、1935年の塗装規定変更で、気動車の標準色として新たに制定された藍青色と帯黄灰色のツートンカラー（青3号と黄かっ色2号）に変更されました。

主要機器

駆動系はキハ41000形のものが基本とされました。エンジン（GMF13）、変速機（D211）、クラッチは、1933年度以降発注のキハ41000形と互換性がありました。ただし、逆転機は設計変更が加えられ、逆転機内の大歯車の歯数変更により最終減速比が変更されたD206が採用されました。これにより定格速度が低く抑えられましたが、低速域での牽引力が向上しました。

冷却装置は、ラジエーターの放熱器素をキハ41000形の20基から24基に増強し、床下に設置しています。全長小型化による調整のため、圧縮空気タンクが台車脇床下のドアステップ真下に組み付けられるなど、スペース確保に苦心した跡が見られます。

台車

逆転機の歯数比変更により、台車に装架される逆転機のケーシング形状が変更されたため、動力台車はトランサム周りの構造が変更されました。また、全長短縮による床下スペースの縮小を最小限に抑える必要から、キハ41000形のTR26（軸距1,800mm）を基本に、軸距を1,600mmに短縮したTR27（付随台車）とTR28（動力台車）が新たに設計・装着されました。

鉄道趣味者の間では、本形式が牽引力向上を図って2軸駆動方式としていたとする説がありますが、これは誤りです。実際には片側の台車の1軸のみを駆動する方式です。

使用実績

1934年3月に製造され、一部は山陽本線で運用されました。その後、各線に配置されましたが、勾配線区での使用実績は良好とは言えず、オーバーヒートなどのトラブルが多発しました。これは勾配区間での走行速度低下により、エンジンの発熱が冷却装置の能力を超えたことが原因とされています。

国鉄のガソリンカーでは、キハニ36450形以降、ラジエーターにファンによる強制冷却が行われていませんでした。キハ41000形とキハ40000形は、走行による自然放熱に頼っていたため、冷却能力が不足していたのです。

対策として、ラジエーターを正面屋根上に移設した車両もありましたが、効果の有無は不明です。また、貨車牽引についても、牽引時の走行性能の問題や、牽引能力の不足から、当初の目的を十分に果たすことはできませんでした。結果として、追加増備は見送られ、製造両数は30両にとどまりました。

中国大陸への供出

全体の半数にあたる車両が戦時中に特別廃車となり、中国大陸へ送られ、華中鉄道で使用されました。戦後は長江を渡る鉄道連絡船に積み込まれている姿が記録されています。また、一部車両は中国東北部で電車の付随車として運行されたり、2008年時点でも廃車体が確認されています。

日本残存車の戦後

終戦後、使用可能車両の多くが私鉄へ譲渡されました。最後まで国鉄に残っていた2両も、1950年に付随車であるキサハ40800形に改造されました。

私鉄払い下げ車

10両が戦後私鉄に払い下げられ、それぞれの路線で活躍しました。

南部鉄道: 2両が払い下げられ、エンジン換装後、客車や気動車として使用されました。
岩手開発鉄道: 1両が払い下げられ、旅客輸送に使用されました。
常総筑波鉄道・関東鉄道: 1両が払い下げられ、エンジン換装後、気動車として使用されました。
北陸鉄道: 1両が払い下げられ、荷物輸送にも対応した気動車として使用されました。
有田鉄道: 1両が譲渡され、気動車として使用されました。
一畑電気鉄道: 2両が払い下げられ、気動車として使用されました。後に他社へ譲渡されました。
* 宮崎交通: 3両が払い下げられ、蓄電池動車に改造されましたが、路線廃止とともに消滅しました。

キハ40000形は、その短い車体と独特なスタイルから、鉄道ファンには人気のある車両です。その多くが姿を消してしまいましたが、日本の鉄道史を語る上で欠かせない存在であると言えるでしょう。

もう一度検索