国鉄クム1形貨車
国鉄クム1形貨車は、
1928年(昭和3年)に昭和天皇の
即位の礼で使用される儀典用
馬車を輸送するために、
鉄道省(後の
日本国有[[鉄道]])によって製造された特殊な有蓋貨車です。この車両は、単なる貨物輸送だけでなく、国家的な儀式を支える重要な役割を担いました。
設計と構造
クム1形は、当初、大正天皇の
即位の礼で使用されたシワ115形貨車の改造を検討していましたが、老朽化のため新規製造されました。27両が製造され、クム1からクム27までの番号が付与されました。
全長7,830mm、全幅2,545mm、全高3,830mmで、自重は10.4tから10.7t、
荷重は15tです。1両の
馬車を積載できるように設計されています。ブレーキは
自動空気ブレーキと側ブレーキを備え、走り装置は一段リンク式です。
車体の構造はシワ115形に類似しており、妻面に
観音開き式の扉を備えています。この扉から
馬車を搭載し、扉を閉めた後に
筋交いで車体を補強する方式も同様です。しかし、側面にはシワ115形の両端にあった扉が、中央に大きな外吊り式引き戸1つに変更されました。この引き戸は両側面とも車体に向かって右側に開きます。外観は一般的な
有蓋車と大きな違いはありません。また、シワ115形が木製外板だったのに対し、クム1形は鋼製車体となり、内張りは木製です。妻面の上部と扉の上部に通風孔が設けられています。
搭載する
馬車は5種類あり、それぞれ寸法が異なるため、車内での固定には専用の台や
ジャッキが必要でした。各車両は特定の種類の
馬車を搭載するように専用化されており、トップナンバーのクム1は、天皇が乗車する特別御料儀装車専用で、
鳳凰の飾りを取り外して置く台なども備えていました。
運用
1928年の
即位の礼では、汐留、名古屋、梅小路などの駅間で
馬車輸送に使用されました。馬を積載する
有蓋車や付き添い人が乗車する客車と共に臨時列車が編成され、一部列車には通常の貨車も連結されました。
即位の礼後、
1929年に全車が
宮内省から
鉄道省に移管され、
1932年からは一般の
有蓋車の代用として使用されました。一部の車両は改造され、その一つとして、妻側の
観音開き扉を利用して
動物園の象を輸送した例もあります。
改造
クム1形は、その後の運用の中で用途に合わせて様々な改造が施されました。
ナ1形・ナ10形への改造
1931年には、クム27が試験的に活魚車のナ1形に改造されました。その後、
1932年と
1935年には計10両が量産型の活魚車ナ10形に改造されました。
クム22 - クム26 → ナ10 - ナ14(1932年)
クム17 - クム21 → ナ15 - ナ19(
1935年)
ヤ50形への改造
1959年頃には、クム10とクム13がバラスト交換列車の
電源車代用として改造されました。形式はそのまま使用されましたが、
1965年に
職用車のヤ50形(ヤ50、ヤ51)へ形式変更されました。この時点で、他のクム1形は全て廃車となり、クム1形は形式消滅しました。ヤ50形も
1971年に形式消滅しました。
運用終了
クム1形の大半は、1960年までに廃車となりました。
電源車代用として残っていた車両も
1965年に形式変更され、クム1形としての歴史を終えました。改造された車両も
1970年までに全て廃車されました。
なお、ナ12とナ13は、
1961年に
岡山臨港[[鉄道]]へ譲渡され、ワ1501とワ1502として活躍しました。
まとめ
クム1形は、昭和初期の重要な儀式を支えた特殊な貨車であり、その後の改造や転用を通じて、日本の
鉄道史に名を残しました。その歴史は、単なる貨物輸送の枠を超え、国家の歴史と技術の進歩を物語る貴重な一例と言えるでしょう。
参考文献
渡辺 一策『RM LIBRARY 83 車を運ぶ貨車(上)』(初版)ネコパブリッシング、2006年。ISBN 4-7770-5172-2。
渡辺 一策『RM LIBRARY 84 車を運ぶ貨車(下)』(初版)ネコパブリッシング、2006年。ISBN 4-7770-5173-0。
* 貨車技術発達史編纂委員会 編『日本の貨車 -技術発達史-』(初版)日本
鉄道車輌工業会、2009年4月30日。