土佐お化け草紙

土佐お化け草紙

『土佐お化け草紙』は、江戸時代に製作された日本の妖怪絵巻です。土佐国（現在の高知県）を舞台に、全16話からなる妖怪譚が描かれています。作者は不詳。

概要

この絵巻は、巻頭で日本各地の妖怪が土佐に集結し、最後に夜明けとともに妖怪たちが退散するという構成になっています。登場する妖怪たちは、非常に地方色が濃く、当時の土佐に伝わっていた民間伝承が色濃く反映されている点が特徴です。けち火や山父といった妖怪が登場することもその一例です。

絵柄は素朴で稚拙であり、妖怪としての恐ろしさよりも、どこか親しみやすさを感じさせるものと評価されています。当時の妖怪譚を図像化したものとして、貴重な資料と言えるでしょう。

現存する『土佐お化け草紙』には、個人蔵品と佐川町教育委員会蔵の2種類があります。それぞれの概要は以下の通りです。

個人蔵品

個人蔵品の製作時期は、江戸中期から後期にかけてと推定されています。この絵巻には奥書があり、それによれば、土佐藩筆頭家老である深尾家の御櫛役を長年務めた吉本家の3代目・栄助正成が拝領し、その後、6代目の娘が嫁ぎ先に持参し、平成以降もその家で大切に保管されているとのことです。奥書には、幼君の夜伽に用いられたとも記されており、作者は近世中期以降の著名な絵師ではなく、地方に住む無名の絵師であったと考えられています。

佐川町教育委員会蔵品

佐川町教育委員会蔵品の製作時期は、巻末の記述から安政6年（1859年）であることがわかっています。この絵巻は、前述の個人蔵品と妖怪譚の大筋は同じですが、物語の順序や描かれている妖怪の特徴などに違いが見られます。そのため、個人蔵版を模写して描かれた可能性も考えられますが、単純な模写品とは言い切れません。佐川町教育委員会に所蔵されるまでの経緯も不明であり、本書がどのように描き伝えられてきたのかは、今後の研究が待たれています。

このように、『土佐お化け草紙』は、土佐の妖怪文化を今に伝える貴重な資料であるとともに、絵巻の伝承過程における謎も秘めた興味深い作品です。

参考文献

小松和彦 著「魔と妖怪」、宮田登 編『日本民俗文化大系』 4巻、小学館、1994年。ISBN 978-4-09-373104-1。
常光徹 著「特集 土佐お化け草紙」、郡司聡他 編『怪』 vol．0012、角川書店〈カドカワムック〉、2001年。ISBN 978-4-04-883720-0。
常光徹 著「異界万華鏡」、国立歴史民俗博物館 編『異界談義』角川書店、2002年。ISBN 978-4-04-883757-6。
湯本豪一編著『妖怪百物語絵巻』国書刊行会、2003年。ISBN 978-4-336-04547-8。

関連項目

馬骨・宿守
蕪村妖怪絵巻
* 怪奇談絵詞

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