土佐光起

土佐光起：土佐派中興の祖とその画業

土佐光起（1617-1691）は、江戸時代中期に活躍した、土佐派を代表する絵師です。和泉国堺の生まれで、土佐光則を父に持ちます。幼名は藤満丸、本姓は藤原です。住吉如慶は、光起の父の高弟であったと伝えられています。光起には、土佐光成、土佐光親という息子がいました。

光起は18歳の時、父に従って京都に移り住みます。そして、38歳にして従五位下・左近衛将監に叙任されました。これは、永禄12年（1569年）の土佐光元戦死以来、途絶えていた朝廷の絵所預の職が、実に85年ぶりに復活したことを意味します。この職の回復は、土佐家にとって長年の悲願であり、光起が「土佐家中興の祖」と呼ばれる所以でもあります。

承応3年（1654年）の京都御所造営では、住吉如慶と共に襖絵や杉戸絵などを制作しました。後水尾天皇の寵愛を受け、光起は自邸に絵所の称号を勅許され、「勅許画院」の称号を用いることを認められました。延宝9年（1681年）、光起は息子光成に絵所預の職を譲り、自ら出家。法橋となり、常昭と名乗り、春可軒と号しました。その後、貞享2年（1685年）には法眼となりました。そして元禄4年（1691年）、75歳で京都にて亡くなりました。法名は寿光院霊誉常照居士です。墓所は知恩寺です。光起の容貌は祖父・土佐光吉に似ていたと伝えられており、息子の光成による肖像画が京都国立博物館に所蔵されています。

画風と画業における革新

光起は、それまでの土佐派の温雅な大和絵の様式に満足せず、ライバルである狩野派や宋元画の技法を積極的に学び取りました。写生に基づいた克明な描写を取り入れることで、従来の土佐派の画風を大きく変革し、江戸時代の土佐派様式を確立しました。

特に、南宋の院体画家李安忠の「鶉図」（国宝、根津美術館蔵）を、父譲りの精密な描写技法を用いて繰り返し描き、その技法は後の土佐派の絵師たちに受け継がれていきました。江戸中期の国学者である橋本経亮は、『梅窓筆記』（1801年）の中で、光起の描いた鶉の絵に猫が飛びかかったという逸話を記しています。

光起は、それまで土佐派が好んで描かなかった風俗画や草木図といった題材にも挑戦し、清新な画風を生み出しました。これらの革新的な試みによって、土佐派は再び隆盛を極めることになります。

画論『本朝画法大伝』

光起は、没する前年の元禄3年（1690年）に画論『本朝画法大伝』を著しました。この書には、土佐家秘伝の技法が記されています。光起は、この秘伝を誤って伝えられることを危惧し、決して人に渡してはならないと厳しく戒めています。

『本朝画法大伝』の内容は、中国の画論に見られる画の六法、三品、十二忌といった理論に加え、筆や顔料の使い方などの実践的な技法解説が豊富です。光起は、土佐派の特質を「異国（中国）の画は文の如く、本朝（日本）の画は詩の如し」と表現しています。また、狩野派への批判的な意見が見られる一方、粉本主義を明確に示しており、同時代の狩野派と共通点も見られます。

まとめ

土佐光起は、土佐派の伝統を守りながら、新たな画風を確立し、その発展に大きく貢献した重要な絵師です。彼の画業と画論は、後世の日本絵画に多大な影響を与え続けました。 彼の生涯と作品は、江戸時代絵画史における重要な一章を担っていると言えるでしょう。

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