土屋耕一

土屋耕一は、1930年に東京で生まれ、2009年に78歳でこの世を去った、日本の著名なコピーライター、回文作家、そして随筆家です。麻布十番で写真館を営む父と、小唄の師匠であった母の間に生まれました。戦時中には千葉県へ疎開し、そこで終戦を迎えます。しかし、19歳の時に原因不明の病に侵され、約5年間の闘病生活を余儀なくされ、その結果、通っていた東京都立九段高等学校を中退することになりました。

23歳の時、知人の紹介でTBSラジオのモニターの仕事を得たことをきっかけに、文章を書く仕事に携わるようになります。朝日新聞に匿名で批評を執筆するなどの仕事を経て、ラジオの企画立案の募集広告に応募します。その際、実際には企画立案の募集は既に終了しており、広告文案家の募集のみが残っていたという経緯がありましたが、結果的にこれが彼のキャリアを大きく左右することになります。資生堂の宣伝文化部に紹介され、1956年に嘱託社員として入社。山名文夫や水野卓史といったデザイナーの下で、コピーライターとしての基礎を築き、その才能を開花させていきました。

資生堂での経験後、1960年に日本初の広告制作プロダクションであるライトパブリシティに入社。大橋正、和田誠、向秀男といった当時の著名なアートディレクターやデザイナーとチームを組み、明治製菓、キッコーマン、伊勢丹、東レ、紳士服メーカーのエドワーズなどの企業広告のコピーを手掛けました。1976年にライトパブリシティを退社後、フリーランスとして独立し、「土屋耕一の仕事場」を開設。その後もコピーライターとして活躍し続けました。また、回文集『軽い機敏な子猫何匹いるか』や『さも虎毛の三毛 住まいの愉快学』など、数々の著作を発表しました。さらに、伊藤園の「おーいお茶」のパッケージに掲載されている季節の川柳の選者としても長年活躍しました。

土屋耕一の文章は、話し言葉の持つ特性を生かし、その時々の世相を反映した、軽妙で洒脱なスタイルが特徴です。母親が小唄の師匠であったことや、幼少期から寄席に通っていた経験から、特に回文においてはその才能を発揮し、1980年代には新聞広告で、紀文や明治製菓などの回文広告を掲載し、広く知られるようになりました。また、コピーライターとしては、句読点の使い方に強いこだわりを持ち、感嘆符や疑問符をほとんど使用しないスタイルを貫いたことでも知られています。文字面を視覚的にイメージさせる思考の持ち主でもあり、これは資生堂時代に、デザイナーが広告のラフを作成し、コピーの文字数を指定するという制作スタイルから培われたものです。

その他、倉橋一郎の独特な感覚的なキャンペーンの方針のもと、伊坂芳太良というキャスティングを得て、銀座四丁目の三愛の丸いビルにショールームを作り、その際、土屋のアイデアが中心となりました。また、資生堂のCMでは、1979年の元旦にのみ放映された、薬師丸ひろ子が出演するCMの中で、土屋が書いた「美しく立っていることができますか」というコピーが登場し、当時知名度の低かった資生堂のインウイという商品が、このCMをきっかけに広く知られるようになりました。

土屋耕一は、数多くの著書を出版しており、代表的なものとしては、『軽い機敏な仔猫何匹いるか 土屋耕一回文集』、『土屋耕一のガラクタ箱』、『土屋耕一の一口駄菓子』、『コピーライターの発想』、『さも虎毛の三毛 住まいの愉快学』、『十七文字のチカラコブ』、『臨月の桃』などがあります。また、多くの有名なキャッチコピーを制作しており、伊勢丹の「…かるく・あかるく・あるく・はる」や「キナリ 好きなり 春となり」、「こんにちは土曜日くん」、「土曜日には汗をながそう」など、数多くの名コピーを残しました。

アートディレクターとしても才能を発揮し、伊勢丹百貨店の「中国伝統家具展新聞広告」や、東洋レーヨンの「ニーニー」、「オプティカル」、「tapilon」、「ドルフィン」などの広告を手掛けました。土屋耕一は、その卓越したコピーライティングとアートディレクションの才能により、日本の広告業界に多大な影響を与えた人物として、今もなおその名を記憶されています。

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