土方与志

土方与志：波乱に満ちた演出家の生涯

土方与志（1898-1959）は、日本の演劇史に大きな足跡を残した演出家である。華族の家に生まれ、伯爵の身分を継承するも、後に剥奪されるという波瀾万丈の人生を送った。築地小劇場を舞台に新劇運動を牽引し、プロレタリア演劇運動にも深く関わり、ソ連亡命を経て、帰国後は日本の演劇界に多大な影響を与えた。本稿では、彼の生涯と業績について詳しく見ていく。

華族の生まれから演劇への道

土方与志は、東京の華族の家に生まれた。祖父は土佐藩出身で、維新後には宮内大臣などの要職を歴任し、伯爵の爵位を授けられていた。しかし、彼の父は陸軍大尉であったが、精神的な病を患い、与志が生まれた年に自殺してしまう。恵まれた環境とは裏腹に、幼少期から不安定な家庭環境に置かれたと言えるだろう。

幼少期から演劇への関心を抱いていた土方は、中学時代には友人と子供芝居一座を結成し、演劇活動を開始する。学習院高等科時代には、近衛秀麿らと「友達座」を結成し、演劇活動に本格的に関わるようになる。ここで音楽を担当した近衛秀麿を通じて山田耕筰と知り合い、その縁で土方の演出家としてのデビュー作『タンタジールの死』が上演される。この作品は、彼の演劇人生の出発点となった。

祖父の危篤を機に急遽結婚した彼は、祖父の死後、伯爵位を襲爵する。その後、東京帝国大学国文科に進学。在学中は自宅の地下に模型舞台研究所を作り、演劇研究に没頭した。大学卒業後は山田耕筰の紹介で、小山内薫に師事し、商業演劇の舞台演出を学んだ。

築地小劇場と新劇運動

ドイツ留学を経て帰国した土方は、関東大震災後の復興期に、小山内薫と共に築地小劇場を設立する。この劇場は、電気を用いた世界初の照明室を備え、チェーホフやゴーリキーなどの翻訳劇を中心に、新劇運動の拠点として機能した。莫大な私財を投じて設立された築地小劇場は、日本の演劇界に大きな影響を与えた。

しかし、小山内薫の死後、築地小劇場内部では内紛が発生し、土方を支持するグループと反対するグループに分裂。土方を支持するグループは新築地劇団を結成し、プロレタリア演劇運動に深く関わっていく。新築地劇団は小林多喜二の『蟹工船』を上演するなど、社会主義リアリズムに基づく演劇を積極的に上演した。

ソ連亡命と帰国後の活動

しかし、プロレタリア演劇運動への関与は、次第に当局からの弾圧を招くこととなる。小林多喜二の検挙と死をきっかけに、土方は治安維持法違反で検挙される危険性が高まり、妻と共に関東大震災後、ソ連に亡命する。ソ連では、日本共産党スパイ査問事件の影響を受け、粛清の危機に瀕し、パリへ亡命。しかし、戦争終結後の1941年に帰国を決意し、逮捕、投獄される。

終戦後の釈放後、土方は演劇活動を再開。前進座や舞台芸術学院で指導を行い、スタニスラフスキー・システムを日本の演劇界に導入することに尽力した。日本共産党にも入党し、晩年は演劇教育にも力を注いだ。彼の活動は、日本の演劇界に多大な影響を与え、現在も高く評価されている。

まとめ

土方与志の生涯は、華族の身分から転落し、ソ連亡命、投獄を経験した波瀾万丈の人生であった。しかし、彼は常に演劇への情熱を持ち続け、日本の演劇史に大きな足跡を残した。彼の功績は、築地小劇場の設立、新劇運動への貢献、プロレタリア演劇運動への関与、そしてスタニスラフスキー・システムの導入など多岐にわたる。彼の生涯は、激動の時代を生き抜いた一人の演劇人のドラマであり、日本の演劇史を語る上で欠かせない存在である。

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