新築地劇団

新築地劇団とは

新築地劇団は、1920年代後半から1940年まで存在した日本の劇団です。築地小劇場の創設者である小山内薫の死後、劇団内部の対立を経て、土方与志を支持するメンバーによって結成されました。社会主義的な思想を背景に、プロレタリア演劇運動にも参加し、社会問題をテーマにした演劇を数多く上演しました。しかし、戦時体制下の厳しい言論統制の中で、1940年に解散を余儀なくされました。

劇団の誕生と発展

1928年末に小山内薫が亡くなると、築地小劇場は内部対立が激化しました。翌1929年4月5日、土方与志を支持する丸山定夫、薄田研二、山本安英、細川ちか子、久保栄らが中心となり、新築地劇団が設立されました。劇団は全国に12の後援会を持ち、約2000人の会員を擁するまでに成長しました。1939年には年間約7万人の観客を動員するなど、解散まで根強い人気を誇りました。

プロレタリア演劇運動への参加

1931年、新築地劇団は日本プロレタリア演劇同盟（プロット）に加盟し、左翼的な演劇活動を積極的に展開しました。小林多喜二の『蟹工船』を『北緯五十度以北』と改題して上演するなど、社会批判的な作品を上演しました。

しかし、こうした活動は当局の警戒を招き、1933年には小林多喜二の追悼公演が当局によって不許可となり、稽古場が警察に急襲される事件も発生しました。プロット解散後には、村山知義による「新劇の大同団結」には参加せず、新たに設立された「新協劇団」とは一線を画し、独自の活動を継続しました。

多様な演出家と演目

劇団の再編後、幹事長には薄田研二が就任し、石川尚、和田勝一、八田元夫らとともに劇団運営の中心を担いました。岡倉士朗、永田靖、本庄克二（東野英治郎）らも加わり、劇団の活動はさらに活発になりました。演出陣には、千田是也に加え、岡倉士朗、山川幸世、八田元夫、青山杉作という多様な才能が集まりました。

上演された演目も多岐にわたり、藤森成吉の『渡辺華山』や『江戸城明渡』、長塚節の『土』、三好十郎の『彦六大いに笑ふ』、ゴーリキーの『どん底』、イプセンの『幽霊』など、古典から現代劇まで幅広く手掛けました。また、和田勝一の『海援隊』や水木洋子の『早春』、真山青果の『坂本竜馬』など、時代劇や社会派ドラマにも挑戦しました。

解散とその後

1940年、劇団を支えた千田是也、岡倉士朗、山川幸世らが相次いで脱退。同年8月には、新協劇団を含む大規模な弾圧が行われ、劇団員や後援会関係者が多数逮捕されました。逮捕を免れた薄田研二は、当局から劇団の解散を強制され、新築地劇団は8月23日に解散しました。

劇団解散後、千田是也は俳優座を設立し、他のメンバーも別々の劇団で活躍しました。新築地劇団は、その短い活動期間にもかかわらず、日本の演劇史に大きな足跡を残しました。

エピソード

推理小説の翻訳家としても知られる久生十蘭も、新築地劇団に一時所属していました。彼は1929年の『北緯五十度以北』で舞台監督を務め、1933年には劇団演出部に入りましたが、すぐに退団しています。

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