地獄の門 (映画)

地獄の門

『地獄の門』（じごくのもん、原題：Paura nella città dei morti viventi）は、イタリア映画界が誇るホラーマスター、ルチオ・フルチがメガホンをとった1980年製作のゾンビホラー映画です。アメリカ公開時のタイトルは『THE GATES OF HELL』。日本では劇場公開されることはなく、ビデオやDVDとして紹介されました。

概要と特徴

本作は、フルチ監督が前作『サンゲリア』に続いて発表したゾンビ映画シリーズの第2弾にあたります。その最大の特徴は、観る者に強烈な印象を残す極めて過激な残酷描写の数々です。脳が飛び散る様、口からおびただしい内臓が噴出するシーン、頭部をドリルが貫通する凄惨な場面、そしておびただしいウジの大群が降り注ぐ描写など、そのグロテスクな表現はフルチ作品の中でも特に際立っており、しばしば物議を醸しました。

物語の核となるプロットも先駆的であり、後に同じフルチ監督の代表作となる『ビヨンド』に先行して、「現世と死者の世界を隔てる境界が崩壊し始め、死者が生者を襲う」という、悪夢的な世界の侵食を描いています。登場するゾンビは単なる動く屍ではなく、悪霊的な性質を帯びており、唐突に姿を消したり出現したりするなど、予測不能な恐ろしさを持っています。舞台となる「ダンウィッチ」という小さな町の名は、作家H.P.ラヴクラフトによるクトゥルフ神話作品群、特に『ダンウィッチの怪』に登場する架空の村と同名であり、作品に不穏な神秘主義的な雰囲気を与えています。

キャスト

主演を務めるのは、女優のカトリオーナ・マッコールです。彼女は本作以前に、日本人プロデューサーと原作者が関わった日本映画『ベルサイユのばら』（1979年）で主人公オスカルを演じた経験があります。本作での起用をきっかけに、マッコールは立て続けにフルチ監督の代表作である『ビヨンド』や『墓地裏の家』といったホラー作品に主演し、フルチホラーのミューズとして知られるようになりました。

あらすじ

物語は、地図にも記載されていないような静かな田舎町ダンウィッチで起こった、トーマス神父（ファブリツィオ・ジョヴィーネ）の衝撃的な自殺から幕を開けます。神父が自らの命を絶つという、キリスト教の教えに背く行為は、この町に忌まわしい影響を及ぼし始めます。神への冒涜が引き金となり、現世と地獄を結ぶ「地獄の門」が開きかけようとしていたのです。この門が、あらゆる魂が解き放たれるとされる万聖節の夜までに閉じられなければ、地獄の悪霊が世界に溢れ出し、人類は滅亡の危機に瀕します。恐るべき事態を霊視によって察知した霊媒師のマリー（カトリオーラ・マッコール）は、偶然出会った新聞記者のピーター（クリストファー・ジョージ）と共に、全ての元凶であるダンウィッチへと向かう決意をします。

特殊メイクと特殊効果

本作の視覚的インパクトを支える特殊メイクと特殊効果は、製作の背景に複雑な事情がありました。フルチ監督は当初、『サンゲリア』で実績のあるジャンネット・デ・ロッシに続投を依頼することを望んでいましたが、プロデューサーが変更されたため、それは叶いませんでした。代わりに特殊メイクを担当することになったのは、フランコ・ルフィーニです。彼はそれまでホラー映画の経験がほとんどなく、主に一般的なメイクアップを手がけていましたが、過去にジャンネット・デ・ロッシと共に仕事をした経験がありました。ルフィーニは、かつて『サンゲリア』でデ・ロッシのアシスタントを務めたロザリオ・プレストピーノの協力を得て、デ・ロッシによる腐敗した死体を思わせるメイクとは異なる、ケロイド状の独特な質感を持つゾンビの顔を創り上げました。ルフィーニはその後、フルチ監督の他の作品や、プピ・アヴァティ監督作品でメイクアップを手がけていますが、ホラー作品での参加は比較的少ないです。一方、アシスタントのプレストピーノは、後にダリオ・アルジェント製作のホラー映画で主要な特殊メイクアーティストとして活躍することになります。

また、本作の最も衝撃的なシーンの一つである、頭部にドリルが突き刺さる場面や、口から内臓を吐き出すシーンなどで使用されたダミーヘッドの制作、そしてその他の特殊視覚効果は、ジーノ・デ・ロッシが担当しました。彼は特殊メイクのジャンネット・デ・ロッシとは別人であり、主にダミー人形や火薬を用いた爆発・火災シーンなどの特撮を得意とする特殊効果技師です。

イベント上映

日本では、2011年7月16日からシネマート新宿にて開催された『ルチオ・フルチ映画祭2011』において、本作が上映されました。この映画祭では『ビヨンド』を含むフルチ監督の作品計7本が1週間にわたり上映され、改めて本作を含むフルチ作品の魅力が多くの観客に再認識される機会となりました。

本作『地獄の門』は、その過激なゴア描写、悪夢的な雰囲気、そして後の作品に影響を与えたプロットにより、フルチ監督のキャリアにおいても重要な位置を占める作品として、多くのホラーファンに語り継がれています。

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