地球空洞説

地球空洞説：空洞の地球、そして地底世界の謎

地球空洞説は、地球が中空構造である、もしくは内部に別の世界が存在するという説です。古くから神話や伝説の中にその片鱗を見ることができ、近世以降も多くの科学者や作家によって真剣に議論されたり、創作の題材とされたりしてきました。しかしながら、現代科学の観点からは、地球空洞説は疑似科学として広く認識されており、その根拠は否定されています。

古代からの地底世界観

地球空洞説の原型は、古来より世界各地の神話や宗教の中に存在します。古代ギリシアでは、地下に冥界が位置すると考えられており、北欧神話のスヴァルトアールヴヘイムや、キリスト教・ユダヤ教の地獄も同様の概念と言えるでしょう。また、北アメリカ南西部の先住民文化においては、地底に複数の階層からなる世界が広がり、人類の祖先はそこから出現したと信じられていました。これらの地下世界観は、地球空洞説とは直接的な関連性はありませんが、地底に未知の空間や世界が存在するという想像力を刺激したと言えるでしょう。

地球空洞説の歴史：主な提唱者と彼らの説

地球空洞説は、近代科学の発展とともに具体的な理論として提唱されるようになりました。主な提唱者とその説を年代順に見ていきましょう。

エドモンド・ハレー (1692年): イギリスの天文学者。地球の磁気変動を説明するために、中心核と複数の同心球状の殻からなる空洞地球モデルを提案しました。各殻は空気層で隔てられ、それぞれ異なる速度で自転し、独自の磁極を持つとされました。内部は明るく居住可能で、オーロラは内部からの発光性ガスが原因だと主張しました。
レオンハルト・オイラー (1770年頃): スイスの数学者。地球空洞説を提唱したとされることもありますが、確実な証拠となる文書は存在せず、後世の創作の可能性が高いです。彼の説では、内部に一個の太陽が存在し、高度な文明を照らしているとされています。
ジョン・クリーブス・シムズ (1818年): アメリカ陸軍大尉。著書『同心円と極地の空洞帯』で、厚さ約1300km、両極に直径約2300kmの開口部を持つ五層の同心球からなる地球モデルを発表しました。これは初期の地球空洞説の中でも最も有名で、北極探検を計画するほどでしたが、資金不足で頓挫しました。
ジョン・レスリー (1829年): スコットランドの物理学者。地球内部に「プルート」と「プロセルピナ」と名付けた2つの太陽を持つモデルを提唱しました。
ウィリアム・リード (1906年): アメリカ人。内部の太陽を持たない単層の空洞地球モデルを提案しました。
ウィリス・ジョージ・エマーソン (1908年): アメリカ人作家。著書『煙の神』では、北極の開口部を通って地下世界に到達し、高度な文明と巨大な住人と遭遇したノルウェー人船員の体験談を記しました。この地下世界は「アガルタ」と呼ばれ、エデンの園の原型とも言われています。
マーシャル・B・ガードナー (1913年): アメリカ人。両極に開口部を持ち、内部に太陽を持つ空洞地球モデルを提案し、模型を製作して特許を取得しました。
レイモンド・バーナード (1969年): アメリカ人。リチャード・バード少将の南極探検における「緑豊かな谷間」の発見を根拠に、地球空洞説を主張しました。

これらの提唱者は、それぞれ独自のモデルを提示し、オーロラや磁気異常などを根拠として主張しました。しかし、これらの説は、現代の地球物理学や測地学の知見と矛盾するものであり、科学的な裏付けに欠けています。

地球空洞説の科学的批判

ニュートンの万有引力の法則によれば、球殻状の空洞内部では、殻の厚さに関係なく、あらゆる場所で重力がゼロになります。地球の自転による遠心力は重力に影響を与えますが、その効果は非常に小さく、地球空洞説を支持するほどの影響力はありません。

現代の地球科学は、地震波の観測や重力測定などから地球内部の構造を詳細に解明しており、地球空洞説とは完全に相容れません。地球は、地殻、マントル、外核、内核からなる複雑な構造を持つことがわかっています。

フィクションにおける地球空洞説

地球空洞説は、フィクションの世界においても人気のあるテーマです。ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』やエドガー・ライス・バローズの『ペルシダー・シリーズ』など、多くの作品で地底世界や空洞地球が描かれ、冒険やミステリーの舞台となっています。これらの作品では、科学的な正確性は必ずしも重視されておらず、空洞地球の内部に独自の生態系や文明が存在する様子が想像力豊かに描かれています。

結論

地球空洞説は、科学的には否定されていますが、古くからの神話や想像力を刺激する魅力的なテーマであり続けています。現代科学の進歩により、地球内部の構造はほぼ解明されていますが、未知の領域への憧れは、今後も人々の想像力を掻き立てるでしょう。地球空洞説は、科学とフィクションの境界において、人類の探究心と想像力の交錯を示す興味深いテーマです。

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