坂上田村丸

坂上田村丸とは

坂上田村丸（さかのうえのたむらまる）は、平安時代の武将・坂上田村麻呂をモデルとした伝説上の人物です。田村麻呂は実在の人物ですが、その活躍は後世に様々な物語として語り継がれる中で、史実とは異なる独自のキャラクターとして描かれるようになりました。特に、清水寺の創建や鈴鹿山の鬼退治といった伝説が有名です。

伝説の形成

田村丸の伝説は、主に以下の3つの地域で形成されたと考えられています。

1. 京都：清水寺の縁起に田村麻呂が関わっていたことが、伝説の起源となりました。清水寺の観音信仰と結びつき、鬼退治の物語が加わることで、田村丸は英雄として語られるようになりました。
2. 鈴鹿山：鈴鹿峠は古くから盗賊が出没する場所として知られており、この地の鬼を退治したのが田村麻呂であるという伝説が生まれました。この伝説は、東海道を通る旅人を守護する神として田村麻呂を捉える考え方にもつながりました。
3. 平泉：奥州藤原氏の時代に、田村麻呂が毘沙門天の化身であるという信仰が広まりました。その結果、田村麻呂は蝦夷を討伐した英雄として、悪路王などの鬼を退治したという伝説も生まれました。

各時代の伝説

平安時代

田村麻呂が清水寺を創建したという伝承は、平安時代から存在しました。しかし、この時点では、田村麻呂が鬼を退治したという話はまだ語られていませんでした。清水寺の創建にまつわる伝承が中心で、蝦夷征討に関する事蹟は記されていません。

鎌倉時代

鎌倉時代になると、武家の時代が到来し、軍記物語が盛んに作られるようになりました。これらの物語の中で、田村麻呂は藤原利仁、藤原保昌、源頼光らとともに伝説的な武人として描かれています。また、この頃から、清水寺の創建伝承に鬼退治の話が結びつくようになりました。

南北朝時代

南北朝時代には、諏訪大社が田村麻呂を縁起に取り入れ、自らの神威を高めようとしました。また、この頃に作られた『神道集』では、田村丸が勝田の宰相の養子であるという話も登場します。

室町時代

室町時代には、『義経記』で田村麻呂が高丸という逆賊を討伐する物語が引用されています。また、鈴鹿峠では、田村麻呂と鈴鹿御前が夫婦神として信仰されるようになりました。能『田村』では、清水寺の創建と鈴鹿山の鬼退治が結びつけられて語られています。

江戸時代

江戸時代には、浄瑠璃や歌舞伎で田村麻呂を主人公にした作品が数多く作られました。これらの作品では、田村麻呂は鬼退治の英雄として描かれ、庶民にも広く知られるようになりました。

田村麻呂と毘沙門天

田村麻呂は、生前から毘沙門天の化身であると評価されていました。このため、田村麻呂の伝説は、毘沙門天信仰と深く結びつくことになりました。特に、東北地方では、田村麻呂を毘沙門天と同一視する考え方が広まりました。

史実とのずれ

伝説の田村丸は、史実の坂上田村麻呂とは異なる点が多くあります。例えば、田村麻呂が熊野や鈴鹿山に遠征したという史実は確認されていません。また、鬼退治の物語も、後世の人々が創作したものであると考えられています。しかし、これらの伝説は、当時の人々の願望や思想を反映したものであり、歴史を語る上で重要な資料と言えるでしょう。

名前について

伝説上の人物を指す場合でも、歴史上の人物と同じく「坂上田村麻呂」と呼称される例が多く、現代では史実と伝承の区別が曖昧になっている部分もあります。物語の中では「田村丸」や「田村丸将軍」といった通称で呼ばれることもあります。

坂上田村丸を主題にした作品

坂上田村丸を題材とした作品は多岐に渡ります。以下はその一部です。

能：『田村』
御伽草子：『立烏帽子』『鈴鹿の物語』『田村の草子』
* 文楽・浄瑠璃・歌舞伎：『坂上田村丸誕生記』『高丸悪路王責』『星砕』『田村三代記』『奥州篦嶽本地』『御山本地一代記』『田村将軍初観音』『鈴鹿山大嶽丸』『田村麿鈴鹿合戦』『勢州阿漕浦』

まとめ

坂上田村丸は、実在の人物である坂上田村麻呂をモデルとした伝説上の人物であり、その活躍は、史実とは異なる独自のキャラクターとして語り継がれてきました。清水寺の創建、鈴鹿山の鬼退治、毘沙門天信仰など、様々な要素が複雑に絡み合って、今日の田村丸伝説が形成されました。この伝説は、地域や時代によって異なる姿を見せていますが、人々の願望や信仰、そして歴史観を反映しているという点では共通しており、歴史や文化を読み解く上で非常に興味深い存在と言えるでしょう。

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