神道集

神道集（しんとうしゅう）

『神道集』は、南北朝時代中期に成立したとされる、全10巻50話からなる中世の説話集であり、神道書です。安居院唱導教団によって著されたと考えられています。内容は、関東地方を中心とした東国の神社の縁起や、本地垂迹説に基づいた神仏に関する説話が収録されています。特に「諏訪縁起事」は、甲賀三郎伝説を伝えるものとして知られています。

構成

『神道集』は以下の構成で成り立っています。

1巻：神道由来之事、宇佐八幡宮事、正八幡宮事、鳥居事、御正体事
2巻：熊野権現事、二所権現事
3巻：高座天王事、鹿島大明神事、香取大明神事、熱田大明神事、祇園大明神事、赤山大明神事、稲荷大明神事、武蔵六所大明神事、上野国九ヶ所大明神事
4巻：信濃鎮守諏訪大明神秋山祭事、諏訪大明神五月会事、越後国矢射子大明神事、越中国立山権現事、能登石動権現事、出羽国羽黒権現事
5巻：日光権現事、宇都宮大明神事、春日大明神事、御神楽事、天神七代事、地神五代事、女人月水神忌給事、仏前二王神明鳥居獅子駒犬之事、酒肉備神前事
6巻：吉野象王権現事、三島大明神事、上野国児持山事、白山権現事
7巻：上野国一宮事、蟻通明神事、橋姫明神事、玉津島明神事、上野国勢多郡鎮守赤城大明神事、上野第三宮伊香保大明神事、摂津芦刈明神事
8巻：上野国赤城山三所明神内覚満大菩薩事、鏡宮事、釜神事、富士浅間大菩薩事、群馬桃井郷上村内八ヶ権現事、上野国那波八郎大明神事
9巻：北野天神事
10巻：諏訪縁起事

成立

江戸時代の考証学者である小山田与清（高田与清）は、『神道集』の本文の内部微証から、その成立時期を文和・延文年間（1352年 - 1361年）頃と推定しています。

著者

『神道集』は、「安居院作」と記されていることから、比叡山竹林坊（竹林院）の里坊であった安居院に住んでいた唱導に優れた澄憲・聖覚親子、またはその流れを汲む人々の手によって書かれたと考えられています。しかし、それを裏付ける確かな史料は現在のところ見つかっていません。なお、安居院は日光や鹿島にも存在したため、これらの地域との関連も考慮する必要があるとされています。

内容

『神道集』は、全国の神社の縁起を集めたもので、特に東国の神社に関する記述が多くなっています。内容は大きく「神道論的なもの」と「垂迹縁起的なもの」に分類されます。「神道論的なもの」は神道教義について論じたもので、「垂迹縁起的なもの」は神社の由来や本地仏を記すものと、神々の苦しみや悲しみを基調として神々や神社の由来を説く物語的なものに分けられます。

「熊野権現事」に描かれる五衰殿は、「苦しむ神」「悩める神」の観念を示すものとして、中世文学史や思想史を考える上で重要な内容を含んでいます。

成立目的

『神道集』がどのような目的で成立したのかは、明確にはわかっていません。しかし、近世の浄土宗の説教僧が『神道集』を説教資料として活用していたことから、説教資料として成立したのではないかと考えられています。

諸本

『神道集』は、現存するものと不明なものを含めて20本近い写本が存在しています。これらの写本は、古本系統と流布本系統に大別されます。古本系統には、赤木文庫本、真福寺本、天理図書館本などが含まれ、流布本系統には、東洋文庫本、旧豊宮崎文庫本、旧林崎文庫本、静嘉堂文庫本、無窮会本、河野省三旧蔵仮名本などがあります。また、近年確認されたものとして、天海旧蔵本、国立歴史民俗博物館本、同志社大学本などが挙げられます。その他にも、茨城県常福寺や東京大学にも存在したとされています。慶応3年には、豊後国東郡田染の八幡宮に多くの神道関係の書籍が奉納されましたが、その中に『神道集』もあったとされています。

刊行物

『神道集』に関する主な刊行物には以下のものがあります。

『神道集』貴志正造編訳、平凡社〈東洋文庫 94〉、1978年
『神道集 東洋文庫本』近藤喜博編、角川書店、1959年
『神道集 河野本』近藤喜博・渡辺国雄編、角川書店、1962年
『神道集 赤木文庫本』近藤喜博・貴志正造編、角川書店、1968年
『神道集』（神道大系編纂会編・発行〈神道大系 文学編1〉、1988年）
西尾光一、貴志正造『鑑賞日本古典文学 第23巻 中世説話集』角川書店、1977年
出渕智信「『神道集』の研究」言叢社、2008年　のち「新訂『神道集』の研究」ブイツーソリューション、2013年
福田晃『神道集説話の成立』三井弥書店、1984年

参考文献

後藤重巳「幻の蔵書 : 豊後田染河野家蔵書寄進目録をめぐって」『史学論叢』第21号、別府大学史学研究会、1990年

関連項目

本地物
甲賀三郎
曽我物語

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