坪井九八郎

坪井九八郎：実業界と政界を繋いだ華族の生涯

坪井九八郎は、明治9年（1876年）8月27日に、海軍士官であった坪井航三の長男として誕生しました。父を早くに亡くした彼は、明治31年（1898年）2月15日、家督を継ぎ、男爵位を襲爵します。

その後、坪井九八郎は、京都帝国大学法科大学を大正8年（1919年）7月に卒業。学業を終えると、実業界へと進出しました。月島機械、台東製糖といった企業の取締役や、愛国貯金銀行の取締役、さらには天津取引所や天津信託の監査役など、数々の要職を歴任しています。これらの活動は、彼の経済界における高い地位と影響力を示しています。

一方、政治の世界においても、坪井九八郎は重要な役割を果たしました。明治44年（1911年）3月11日には、貴族院男爵議員補欠選挙に当選。公正会に所属し、死去するまで4期にわたって議員を務めました。貴族院議員としての活動に加え、第2次大隈内閣では農商務副参政官の職に就き、また米価調節調査会委員も務めるなど、政府の要職にも携わっています。

彼の活動は、単なる企業経営や政治活動にとどまりません。多角的な事業への関与や政府機関での要職就任は、当時における経済界と政界の繋がり、そしてその中で彼が果たした役割の大きさを示すものです。

華族としての立場を活かしつつ、実業界と政界の双方で活躍した坪井九八郎は、時代の変遷の只中にあって、それぞれの分野で重要な役割を担っていました。その多様な経験と実績は、現代においても注目に値します。

しかし、坪井家の歴史は、九八郎の死によって一つの転換期を迎えます。彼は没後、襲爵の手続きが行われず、1931年9月には、華族の栄典を喪失しました。この事実は、華族制度の終焉を象徴する出来事の一つとして捉えることもできるでしょう。

坪井九八郎の生涯は、激動の時代を駆け抜けた実業家、政治家、そして華族の、複雑で興味深い物語です。彼の功績は、単に役職や地位に留まらず、時代背景と密接に関連付けながら、より深く理解される必要があるでしょう。彼の功績を評価し、理解することは、近代日本の歴史を理解する上で重要な一助となるはずです。

栄典:

明治35年（1902年）12月20日：正五位
昭和2年（1927年）1月15日：従三位

親族:

母：賀尾（よしお、山下義和の長女）

参考文献:

人事興信所編『人事興信録 第8版』人事興信所、1928年
『貴族院要覧（丙）』昭和21年12月増訂、貴族院事務局、1947年
衆議院・参議院編『議会制度百年史 - 貴族院・参議院議員名鑑』大蔵省印刷局、1990年
* 霞会館華族家系大成編輯委員会『平成新修旧華族家系大成 下巻』霞会館、1996年

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