坪内寿夫

坪内寿夫：波乱万丈な生涯と卓越した経営手腕

坪内寿夫（つぼうち ひさお）は、1914年（大正3年）に愛媛県で生まれ、1999年（平成11年）に85歳で亡くなった日本の実業家です。その生涯は、数々の企業の再建劇と、一代で巨大企業グループを築き上げた波乱万丈なものでした。

生い立ちと初期のキャリア

愛媛県伊予郡松前町で生まれた坪内は、弓削商船学校（現・弓削商船高等専門学校）を卒業後、南満州鉄道に就職しました。第二次世界大戦に従軍し、敗戦後はシベリア抑留を経験するという過酷な時代を生き抜きました。1948年（昭和23年）に帰国後、父から引き継いだ松山市の映画館「グランド劇場」の経営に着手し、その才能を開花させます。当時としては画期的だった二本立て上映を導入し、「四国の映画王」と呼ばれるほどの成功を収めました。

造船業への進出と「来島型標準船」

1953年（昭和28年）、坪内は来島船渠（現・新来島どっく）の経営を引き継ぎ、社長に就任します。徹底的なコスト削減と販路の見直しを行い、経営を軌道に乗せました。特に、標準船戦略による量産方式は画期的で、流れ作業で同一型船を大量建造することで大幅なコスト削減を実現しました。これが、後の「来島型標準船」として知られるようになります。さらに、業界初の分割払い制度を導入し、資金力の低い船主でも船を購入できるようにしたことも特筆されます。

多角化経営と「四国の大将」

その後、坪内は奥道後国際観光を立ち上げ、観光開発にも乗り出します。1978年（昭和53年）には、佐世保重工業の社長に就任し、200億円以上の累積赤字を4年で解消するという驚異的な経営手腕を発揮しました。来島グループはその後、オリエンタルホテルやダイヤモンドフェリー（現・フェリーさんふらわあ）など、様々な企業を傘下に収め、最盛期には180社を超える巨大グループに成長しました。

経営破綻と晩年

1980年（昭和55年）に糖尿病を患い、入退院を繰り返す中で、経営判断を部下に任せる場面が増えました。1980年代の造船不況、韓国の台頭、円高などの要因が重なり、1986年（昭和61年）にはグループは経営破綻状態に陥ります。坪内は私財を投じて再建に尽力しましたが、1987年（昭和62年）にはグループ各社の代表権を返上しました。その後、1988年（昭和63年）に佐世保重工の会長に復帰し、1994年（平成6年）に相談役を退任しました。

経営手法：コスト削減と信賞必罰

坪内の経営手法は、徹底した「コスト削減」と「信賞必罰人事」が特徴です。戦前からの労働慣習を見直し、入退社管理の徹底や8時間労働1時間休憩の導入など、現代では一般的な労働スタイルを先駆けて取り入れました。また、人事においては、実力主義を徹底し、「エレベーター人事」と称して、抜擢や降格を積極的に行いました。顧客心理を巧みに利用した再建手法も、坪内の特徴です。例えば、銀行再建の際に、顧客に安心感を与えるために、建物の補強か建て替えかの選択を顧客に委ねるという方法を取り、信頼を勝ち得ました。

多様化への挑戦と課題

坪内は、造船業だけでなく、隣接する業種への多角化を進めましたが、マスコミ業界（日刊新愛媛）への進出は、愛媛県知事との対立などから、必ずしもうまくいきませんでした。また、プロ野球球団の買収や、国鉄再建への意欲を示すなど、その挑戦は多岐にわたりました。

評価

坪内は、一代で巨大企業グループを築き上げた実業家として、多くの支持者を集めました。特に、私財を投じてでも企業再建に尽力する姿勢や、犯罪者の社会復帰を支援するなど、その人間性も高く評価されています。しかし、企業買収の強引さや、他者の意見を聞かない一面も指摘されています。また、週休1日制の維持など、時代変化への対応の遅れも、晩年の課題として残りました。

後世への影響

坪内の死後、その功績を記念して「奥道後坪内記念館」が開設されました。また、坪内をモデルにした小説やノンフィクション作品も多数存在し、その経営手腕と波乱万丈な生涯は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

関わった主な企業

新来島どっく
カナサシ
カナックス
新高知重工
佐世保重工業
日刊新愛媛
関西汽船
西日本レジャー開発
ダイヤモンドフェリー
オリエンタルホテル
函館どつく
東邦相互銀行


坪内寿夫は、その強烈な個性と卓越した経営手腕で、日本の経済史に大きな足跡を残した人物です。

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