堅田駅 (江若鉄道)

堅田駅：琵琶湖畔の産業と消えた鉄道の足跡

滋賀県大津市にあった堅田駅は、かつて江若鉄道を支えた重要な駅でした。1923年12月、雄琴駅から延伸開業した江若鉄道の駅として誕生しました。翌年には和邇駅まで路線が伸び、琵琶湖の狭窄部に位置する堅田は、古くからの水運拠点に加え、鉄道開通を機に新たな発展を遂げます。

特に、1926年に東洋紡績が堅田工場を建設し、1927年からレーヨンの生産を開始したことは、堅田の産業構造を大きく変えました。この工場は戦後まで地域経済を支える中心的存在となり、堅田駅は工場の物資輸送にも重要な役割を果たしたのです。駅は旅客と貨物の両方を扱い、島式ホーム1面と貨物ホーム、側線を備えた、江若鉄道内では比較的大規模な駅でした。最盛期には駅長や助役、数名の駅員が勤務していました。列車交換も可能な設備を有しており、地域の交通の要として機能していました。

しかし、1969年10月31日、江若鉄道は営業を終了。堅田駅も翌11月1日に廃止の運命を辿ります。駅舎やホームは廃止後も暫くバス停として利用されましたが、1985年頃には解体され、跡地には現在、江若交通系列のスポーツクラブが建っています。

堅田駅周辺は、かつては駅を中心に発展した住宅街でした。駅前にあった江若バスの車庫も、地域の生活に密着した風景の一部でした。国道161号（現在の滋賀県道558号高島大津線）沿いに位置していた駅は、堅田の中心地にあり、多くの住民にとって身近な存在だったでしょう。

現在、堅田駅から真野駅へ向かう線路跡は、湖西線の堅田駅周辺の開発により、ほとんど確認できません。しかし、駅周辺に残るわずかな痕跡や、写真、文献資料などから、かつてこの地に存在した活気ある駅の様子を想像することができます。堅田駅は、近代日本の産業発展と地方鉄道の盛衰を物語る貴重な歴史的遺産と言えるでしょう。

堅田駅のデータ

開業日: 1923年（大正12年）12月1日
廃止日: 1969年（昭和44年）11月1日
所在地: 滋賀県大津市本堅田（当時：滋賀郡堅田町）
所属路線: 江若鉄道江若鉄道線
駅種別: 一般駅（旅客・貨物）
ホーム: 島式ホーム1面2線
その他: 東洋紡績堅田工場への専用側線あり

参考文献

今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳』 9 関西2、新潮社、2008年
大津市歴史博物館 編『江若鉄道の思い出 ありし日の沿線風景』サンライズ出版、2015年
竹内龍三「私鉄車両めぐり(70) 江若鉄道」『鉄道ピクトリアル』第17巻第1号、鉄道図書刊行会、1967年1月
田中真人、宇田正、西藤二郎「第16章 琵琶湖の首飾り―江若鉄道・湖西線」『京都滋賀 鉄道の歴史』京都新聞社、1998年
寺田裕一『新 消えた轍 ―ローカル私鉄廃線跡探訪―』 8 近畿、ネコ・パブリッシング、2010年
吉田恭一『地形図で辿る廃線跡 古地図とともにいまはなき鉄道を歩く』心交社、1998年
「江若鉄道 その車輛・列車・歴史・駅をめぐる」『レイル No.84』エリエイ/プレス・アイゼンバーン、2012年
* 『新修大津市史』 第7巻（北部地域）、大津市、1984年

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