境相論

境相論（さかいそうろん・堺相論）とは

境相論とは、中世日本において、所領の境界（境目）を巡って発生した紛争のことです。土地の境界を巡る争いは、古代末期から見られましたが、中世に入るとその数が増加し、社会問題化しました。

境相論の発生

境相論の発生は、古代末期にまで遡ります。平安時代中期以降、土地開発が進むにつれて、田畑の境界線や山野河海の用益権を巡る争いが頻発しました。特に、国衙領などの公領を侵食しようとする荘園と、それを阻止しようとする国司との対立、異なる領主が所有する荘園同士の境界争い、山林などの使用権・収益権を巡る村落間の争い（山論・水論）などが、頻繁に発生するようになりました。

中世の境相論

鎌倉幕府成立後は、東国では鎌倉幕府、西国では朝廷が境相論を裁定するという原則が確立しました。しかし、承久の乱以降は、六波羅探題が実際の審査に関与するようになりました。ただし、令制国の境界線が絡む問題に関しては、天皇による決定（聖断）のみが裁決として有効でした。

境相論の訴訟は、基本的に所領を実際に支配している者を論人（被告）、実際には支配していないものの正当な権利者であると主張する者を訴人（原告）とするのが一般的でした。相論発生時には、論人が一時的に所領の領有を認められていましたが、判決が出るまでは、その使用や売却・処分は制限され、収穫物は訴人側の立ち会いを得て行わなければなりませんでした。また、訴訟機関が一時的に所領の権利を停止し、管轄下に置く「中に置く」という措置がとられることもありました。この場合、許可なく収穫物を持ち出すことは「押収狼藉」という罪に問われました。

境相論の訴訟では、原則として論人・訴人双方が証拠となる文書類を提出し、訴訟機関がこれを審査して判断しました。しかし、必要に応じて、現地での実検や、古老からの事情聴取が行われることもありました。『御成敗式目』には境相論に関する規定があり、実検使の派遣や、訴人が不当に訴えた場合には、訴人の所領の一部を論人に与えて賠償とする規定がありました。

室町幕府や諸国の守護も、基本的にはこの方針を踏襲しましたが、当時の政治権力は、刑事的・軍事的な問題に発展しない限り、裁決結果を強制執行するための措置は取らなかったため、裁決が出ても解決しない場合も少なくありませんでした。戦乱などで政治権力が弱体化すると、裁決に従わない例も珍しくなく、武力による自力救済が行われることもありました。特に、南北朝時代から戦国時代にかけては、村落間で境界線や入会地を巡って紛争が生じた場合、隣接する村落同士による実力行使である「合戦」が発生することもありました。また、火起請・湯起請などの非科学的な神判による解決方法も用いられました。

境相論の解消と近世的秩序のはじまり

織田信長の政策を引き継いだ豊臣政権は、天正13年（1585年）には九州地方、天正15年（1587年）には東国・奥羽に向けて惣無事令を発布し、領主間の私闘を禁止しました。これにより、境相論の解決機能を大名間・村落間を問わず、政権に集中させようとしました。刀狩令によって、村々から武器を接収したのは、封建秩序の確立や一揆の防止とともに、境相論における実力行使を、政権の権威に対する脅威とみなしたためでした。また、平定された地域において国分を行い、太閤検地によって耕作者を確定させたことは、自力救済を否定し、集権的な政府による地方支配を目指したものでした。これにより、境相論は解消に向かい、近世的な秩序が形成されていきました。

参考文献

安田元久「堺相論」（『国史大辞典 7』、吉川弘文館、1986年、ISBN 4642005072）
黒田日出男「境相論」（『日本史大事典 3』、平凡社、1993年、ISBN 4582131034）
* 池上裕子『織豊政権と江戸幕府』講談社<日本の歴史15>、2002年1月。ISBN 4-06-268915-4

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