西国

西国:時代と文脈によって変化する地理的呼称



「西国」とは、日本の西部の地域を指す言葉ですが、その範囲は時代や文脈によって大きく異なっており、明確な定義はありません。近畿地方、中国地方、九州地方、さらには西日本全体を包含する場合もあります。本稿では、「西国」の多様な解釈と歴史的変遷を詳細に解説します。

現代における解釈



現代においても「西国」という表現が用いられることはありますが、その範囲は必ずしも一定ではありません。例えば、行政の中心が関東地方にある場合、それに対する近畿地方(関西地方)を指して「西国」と呼ぶことがあります。また、中国地方、特に山陽地方を指す場合もあります。これは、かつて山陽道西国街道と呼ばれていたことに由来します。さらに、九州地方も「西国」と称されることがあり、これはかつて九州西海道と呼ばれ、鎮西府が置かれていた歴史に関係しています。

他にも、西日本全体を指す場合や、畿内(近畿地方)より西の地域(中国・四国九州・沖縄地方)、関東地方より西の地域(中部・東海・近畿・中国・四国九州・沖縄地方)、東海地方より西の地域(近畿・中国・四国九州・沖縄地方)といった解釈も存在します。このように、「西国」の範囲は、基準となる地域によって大きく変化します。

歴史的変遷



歴史的に見ると、「西国」は東国に対する対比として用いられることが多く、明確な区域を指すというよりも、相対的な概念として捉えられるべきでしょう。ヤマト王権(大和朝廷)の形成過程において、西日本の諸豪族との結びつきが重視され、それに対し東側の地域が「東国」として認識されました。しかし、「西国」という呼称の最古の例は、『日本書紀天武天皇5年(676年)に遡り、この時点では九州を指していました。

鎌倉幕府成立後は、当初、幕府の支配圏(越後・信濃・三河以東)を「東国」、九州を「西国」(鎮西)、そして京都を中心とした地域を「畿内近国」と呼んでいました。承久の乱後、六波羅探題の設置によって畿内近国と九州がまとめて「西国」と呼ばれるようになり、その後、鎮西探題の設置により九州六波羅探題の管轄から外れると、畿内近国のみを「西国」と呼ぶようになりました。

建武の新政により、鎌倉幕府東国・西国・鎮西という区分は解消され、「西国」という行政区域は消滅しました。その後も、畿内以西の地域、あるいは九州のみを漠然と「西国」と呼ぶ慣習は残りました。『日葡辞書』では「西国」を九州と解釈しています。戦国時代には、山陽道山陰道にあたる中国地方を西国と呼ぶこともありました。さらに、古代や近代においては、海外の国々(古代中国や近代の欧米諸国)を「西国」と呼ぶこともありました。

まとめ



「西国」は、時代や文脈によってその範囲が大きく変動する曖昧な地理的呼称です。近畿地方、中国地方、九州地方といった具体的な地域を指す場合もあれば、西日本全体を指す場合もあり、さらには東国に対する相対的な概念として用いられることもあります。歴史的背景や具体的な文脈を理解しなければ、その正確な意味を把握することは困難です。この多様な解釈こそが、「西国」という呼称の複雑さを示しています。

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