墓めぐり

墓めぐりとは

墓めぐりとは、歴史上の偉人や著名人、あるいは個人的に縁のある故人の墓を訪ね歩く行為です。日本では「掃苔（そうたい）」とも呼ばれ、墓石に生えた苔を払うことから転じて、墓参り全般を指す言葉となりました。墓めぐりは、単なる観光や墓参りにとどまらず、故人の足跡を辿り、その人生や時代背景に思いを馳せるという、奥深い魅力を持っています。

墓めぐりの目的

墓めぐりの目的は人によって様々です。

偉人への敬意: 歴史上の偉人や尊敬する人物の墓を訪れ、その功績を偲び、敬意を表します。一種の巡礼のような意味合いを持つこともあります。
エピタフの鑑賞: 墓碑に刻まれた故人の詩や言葉（エピタフ）を鑑賞し、故人の思想や人となりを知ることを楽しみます。
歴史の研究: 当時の文字や歴史を知るために、墓碑の拓本を取ったり、研究したりします。
墓のデザイン鑑賞: 墓石の材質、形状、デザインを鑑賞し、その美しさや歴史的背景を楽しみます。

墓めぐりの歴史

墓を巡る行為は、古くから世界各地で行われてきました。宗教的な巡礼と並行して、個人的な関心から著名人の墓を訪ねる行為も存在しました。特に19世紀のヨーロッパでは、庭園のような美しいガーデンセメタリーが登場し、墓めぐりがより身近なものとなりました。フランスのペール・ラシェーズ墓地は、その代表例として多くの観光客が訪れています。

日本の掃苔文化

日本では、近世後期以降に宗教的な動機とは別に、故人を偲び、歴史に思いを馳せる文化として「掃苔」が定着しました。掃苔は、単なる墓参りにとどまらず、趣味やライフワークとして行われることもあります。掃苔家と呼ばれる人々は、墓を訪れ、故人の生涯や人となりを思い、墓碑銘を読み解き、その書に触れるなど、様々な角度から墓と向き合います。

掃苔の楽しみ方は多岐に渡ります。

故人との対話: 墓を媒介として、故人について語りながら、自己について語ります。墓は掃苔家のモノローグを映し出す鏡のような存在であるという見方もあります。
書道の鑑賞: 墓碑銘の書跡を鑑賞し、その史料的価値を確認します。
墓石の研究: 墓石の材質、形状、寸法、方位などを調査し、その意味を探ります。

江戸時代には、著名人の墓をまとめた「掃苔録」も刊行され、文人らの間で掃苔が流行しました。

近代以降の掃苔

明治維新以降、掃苔家による同好会が結成され、機関誌や同人誌が発行されるようになりました。これらの雑誌では、墓石の形状や銘文、被葬者の略歴などが紹介されています。また、掃苔録も引き続き編集され、都市部だけでなく地方の墓所に焦点を当てたものも登場しました。近代の著名な掃苔家としては、森鴎外や永井荷風などが挙げられます。

昭和時代に入ると、文芸評論家の野田宇太郎が、文豪ゆかりの地を巡る「文学散歩」を提唱しました。これは、掃苔の対象を広げたもので、より気軽に歴史や文化に触れることができるようになりました。

平成時代以降には、墓巡りをする人を指す「墓マイラー」という言葉も生まれ、インターネット上での情報発信も活発に行われるようになりました。スマートフォンアプリの登場により、著名人の墓所を容易に訪問できるようにもなりました。

世界の著名な墓所

世界には、歴史的に重要な人物や、文化的に価値のある墓所が数多く存在します。以下はその一部です。

アメリカ: アーリントン国立墓地、ハリウッド・フォーエヴァー墓地
イギリス: ウェストミンスター寺院、ホーリー・トリニティ教会、ハイゲイト墓地、グレイフライアーズ・カークヤード
イタリア: サンタ・クローチェ聖堂
スイス: ムーリ修道院
オーストリア: カプツィーナー納骨堂、ウィーン中央墓地
フランス: サン＝ドニ大聖堂、パンテオン、オテル・デ・ザンヴァリッド、ペール・ラシェーズ墓地
ロシア: チフヴィン墓地
日本: 青山霊園、多磨霊園、谷中霊園、雑司ヶ谷霊園、染井霊園、小平霊園、八柱霊園

これらの墓所は、それぞれ独自の歴史や文化を持っており、訪れる人々に深い感動を与えます。

墓めぐりのマナーと注意点

墓所は、故人を偲ぶ神聖な場所です。そのため、法律やマナーを守り、敬意を払って訪問する必要があります。

窃盗・器物損壊: お墓にあるものを持ち帰ったり、墓石を損壊したりすることは、犯罪行為にあたります。
騒音: 墓前で騒いだり、大声で話したりすることは控えましょう。
立ち入り禁止: 非公開の場所や立ち入り禁止の場所には、無許可で立ち入らないようにしましょう。
写真撮影: 写真撮影をする際は、周囲の人に配慮しましょう。
お供え物: お供え物は、持ち帰るようにしましょう。
* 飲酒: お酒を墓石にかけることは、墓石を痛める原因になるので、控えましょう。

まとめ

墓めぐりは、歴史や文化、そして人生について深く考える機会を与えてくれます。故人を偲び、歴史に触れ、自己を見つめ直す旅として、墓めぐりをしてみてはいかがでしょうか。ただし、墓所は神聖な場所であるということを忘れずに、マナーを守って楽しむことが大切です。

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