士農工商

士農工商の概念とその歴史

士農工商（しのうこうしょう）、あるいは四民（しみん）は、古代中国に由来する言葉であり、職業の枠組みを示すものでした。本来の意味は「国中のすべての人びと」を指し、特に士（武士）、農（農民）、工（職人）、商（商人）の各階層を含むものでした。しかし、その後の歴史的背景から、日本においては主に江戸時代の身分制度として理解されています。

歴史的背景

士農工商の概念は、中国の春秋戦国時代に始まり、『管子』や『漢書』に見られる最古の文献に登場します。日本での使用は奈良時代にはすでに確認されており、「四民の徒、おのおのその業あり」と記されています。この頃の「士」は武士を指すものではなかったが、17世紀半ばには武士を意味するように発展しました。

近世に入ると、士農工商は日本国内で身分制度の基礎となり、武士が最上位、次に農民、商人、職人とされる固定的な体系が形成されました。ただし、江戸時代の実際の制度では、百姓（農民）や町人（商人）などの身分が存在し、それぞれの間に明確な上下関係はありませんでした。また、「工」という概念が存在せず、職人は「町人」や「百姓」として扱われました。

近代に向けた変化

1990年代に入ると、士農工商の身分制度が実際に存在しなかったという見解が強まります。これにより、文部科学省が発行する教科書から削除されたことも影響を与えました。士農工商という概念は、身分制度からの解放された「四民平等」を前提から引用されることが増えました。

今日の視点

士農工商を職業として扱うことには違和感を持つ学者も多く、歴史学者の中には「士・農・工・商は職分であり、身分制度としての説明は馬鹿げている」とも指摘されます。また、江戸時代の歴史を振り返ると、「士」階層と農工商階層には明確な格差が存在し、さらには「えた」や「ひにん」と呼ばれる差別された層も存在していました。

具体的な差別の実態

江戸時代には、特定の職業における人々が社会生活から排除されており、その無知や恐怖から生じた差別は根深いものでした。たとえば、医師や商人の中には、時には武士のように貴族的な扱いを受ける者もいる一方で、えた・ひにんは社会的に疎外され、厳しい制約を受けていました。

後世の芸術表現

士農工商は、音楽や文学の中でしばしばテーマとして取り上げられています。特に、松浦検校の手事物地歌「四つの民」は、士農工商の各職業の美点を讃える内容に仕上がっています。このように、士農工商はただの歴史的概念にとどまらず、日本文化の核に根付いていると言えます。

結論

士農工商という言葉は、単なる職業の枠組みを越え、社会制度や文化的側面にまで影響を及ぼしてきました。今日では、その理解を深めることで、過去の誤解を解き明かし、現代における社会的な課題へとつなげていくことが重要です。本来の意味を知ることで、これからの社会のあり方を考える材料となることでしょう。

もう一度検索