多々良氏

多々良氏（たたらうじ）

多々良氏は、古代日本における氏族の一つであり、その姓は初め「公」でしたが、後に「宿禰」を賜りました。以下に、多々良氏に関する詳細を記述します。

概要

『新撰姓氏録』によれば、多々良氏は加羅の王・爾利久牟（にりくむ）王の末裔とされています。欽明天皇の御世に渡来し、金の多々利や金の乎居などを献上したことから、多々良公の姓を賜ったと伝えられています。また、周防国（現在の山口県）にも多々良氏の存在が確認されており、延喜8年（908年）の戸籍公文には「多々良公秋男」という人物の名が見えます。この周防国の多々良氏は、後の在庁官人としての多々良氏、さらには大内氏の先祖であるという説も存在します。

大内氏の始祖伝説

周防国の武家である大内氏は、多々良氏について『大内多々良氏譜牒』という書において、独自の始祖伝説を記しています。それによれば、大内氏の祖は百済の聖明王の第三子・琳聖太子であるとされています。推古天皇17年（609年）には、鷲頭庄青柳浦の松樹に大星が留まり、七昼夜にわたって赤々と輝き続けたという奇瑞がありました。この現象に対し、神託があり、異国の太子の来朝を鎮護するために北辰（北極星）が降ったと告げられたため、人々はこれを妙見尊星菩薩として社を建立し祀りました。その後、推古天皇19年（611年）に琳聖太子は周防国佐波郡多々良浜に漂着し、摂津国荒陵（現在の大阪市天王寺区茶臼山）で聖徳太子に謁見しました。聖徳太子から周防国大内県を采邑として与えられ、多々良という姓を賜り、その地を本拠としたと伝えられています。

大内氏が本州の西端に位置し、朝鮮半島を望む地理的条件にあったこと、また朝鮮半島との貿易を積極的に行っていたこと、代々篤く仏教を信仰していたことなどが、この伝説の背景にあると考えられます。

周防国の在庁官人として

多々良氏は、周防国において在庁官人としても活動していました。仁平2年（1152年）の周防国在庁下文には、署名した9人の在庁官人のうち3人が多々良氏であったことが記されています。また、治承2年（1178年）には、多々良盛保、多々良盛房、多々良弘盛、多々良忠遠が流罪を免ぜられています。養和2年（1182年）の野寺僧弁慶申状案には、在庁官人として「権介多良（盛房）」の名が見えます。文治3年（1187年）には、周防国内の御家人が東大寺造営のための材木の搬出を妨げたとして、在庁官人が連署して朝廷に訴えましたが、この解状に多々良宿禰弘盛の名前があります。しかし、建久3年（1191年）には、弘盛自身が東大寺造営柱の搬出を妨げたとして重源によって鎌倉に訴えられ、幕府はこれを却下し、朝廷への奏聞を奨めています。こうした一連の行為は、大内氏が国衙機構を足場に在庁の諸豪族を配下に編成するために、国司や目代との協力関係も必要としたためと考えられます。

建長2年（1250年）には、幕府が奉行した京都・閑院御所の造営に大内介・多々良弘貞がその分担を割り当てられており、翌年には与田保の地頭と公文との間で生じた争論の際、六波羅が大内介に沙汰してこの処理に当たらせています。このことから、この頃の多々良氏（大内氏）は実質的に守護に近い存在になっていたと考えられます。

遺構

現在の山口県防府市国衙の北方には、多々良という地名や多々良山があり、これらは多々良氏の遺構であると考えられています。

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