琳聖太子

琳聖太子とは：大内氏の祖をめぐる謎

琳聖太子（りんしょうたいし）は、6世紀から7世紀にかけて生きたとされる人物で、大内氏の祖と伝えられています。伝承によれば、朝鮮半島の百済の王族であり、聖王（聖明王）の王子、または武寧王の孫とされています。本名は義照と伝えられています。

琳聖太子をめぐる伝承

大内氏が氏神として祀る妙見菩薩を祀る鷲頭寺の書には、琳聖太子が推古天皇5年（597年）に桂木山に御霊を移し、百済から将来した妙見菩薩像を納めたと記されています。『大内多々良氏譜牒』によれば、琳聖太子は推古天皇19年（611年）に周防国多々良浜（現在の山口県防府市）に上陸し、聖徳太子から多々良姓と大内県を賜ったとされています。

渡来の経緯については、老翁から聖徳太子が生身の観世音菩薩の化身であると告げられた琳聖太子が渡来を決意。吉備羽嶋が王使として百済へ赴き、北辰降臨の由を伝え、皇子を日本へ迎えたいと申し出たため、琳聖太子は百司百官を率いて日本へ向かったと伝えられます。そして、秦川勝が出迎え、吉敷郡問田村に仮の王宮を建立して琳聖太子をもてなしたとされています。

聖徳太子との会見では、琳聖太子は百済から持参した北斗七星剣を献上。聖徳太子は琳聖太子を難波の生玉宮に滞在させ、四天王寺や飛鳥寺などを参拝させた後、青柳の浦での祭りを許可したとされています。

琳聖太子の実在性

しかし、現在の研究では、大内氏は周防国の在庁官人が豪族化して勢力を拡大したと考えられており、琳聖太子という人物は、当時の日本や百済の文献には見当たりません。大内氏が百済との繋がりを強調し始めたのは、朝鮮半島との貿易を重視した大内義弘の時代とみられています。義弘は、貿易を有利に進めるため、琳聖太子なる人物を捏造し、その子孫と称したと考えられています。

福尾猛市郎は、琳聖太子に関する記述が大内家の家系伝承にしか見られないことを指摘し、その実在を疑問視しています。大内家の家系伝承も室町時代に成立したものとみられ、文献的には応永年間（1394年～1427年）以前には遡れないというのが学界の多数説です。

琳聖太子の最期とその後

伝承によれば、琳聖太子は百済滅亡の悲報を聞き、天智6年（667年）に96歳で亡くなったとされています。入滅の地は難波の生玉宮で、葬儀は百済寺で行われたと伝えられています。

子孫とされる大内義弘は、応永6年（1399年）に朝鮮国王に大内氏が百済王の後裔であると述べ、旧百済国の一部の土地を要求しましたが、重臣たちの反対により実現しませんでした。しかし、貿易は認められ、その利益が大内氏の勢力拡大に貢献しました。大内政弘の頃には、大内氏の百済系末裔説が広まっており、『大乗院寺社雑事記』には「大内は本来日本人に非ず…或は又高麗人云々」との記述が見られます。

現代に残る足跡

大内家の45代当主だという男性が、2009年に韓国益山市にある百済王陵を訪れ、歓迎を受けました。山口県山口市には、琳聖太子供養塔が残っています。

琳聖太子は、大内氏の祖というだけでなく、古代の日本と朝鮮半島の交流を示す象徴的な存在として、今も語り継がれています。

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