多久頭魂神社

多久頭魂神社の概要

多久頭魂神社（たくずだまじんじゃ）は、長崎県対馬市厳原町豆酘（つつ）に位置する神社です。この神社は、対馬の歴史と文化を深く反映しており、特に古代からの信仰形態を今に伝える貴重な存在です。

祭神

祭神として、天照大神（あまてらすおおみかみ）、天忍穂耳命（あめのおしほみみのみこと）、日子穂穂出見尊（ひこほほでみのみこと）、彦火能邇邇芸尊（ひこほのににぎのみこと）、鵜茅草葺不合尊（うがやふきあえずのみこと）の五柱が祀られています。しかし、本来の祭神は対馬特有の神である多久頭神（たくずのかみ）であると考えられています。

歴史

神社の創建は、神武天皇の時代に遡るとの伝承もありますが、これは後世に付会されたもので、正確な創建時期や経緯は不明です。古くは「魂」の字を付けずに「多久頭神社」と称されていました。

延喜式神名帳には、対馬国下県郡十三座の一つとして「多久頭神社」が記載されており、この神社が現在の多久頭魂神社に比定されています。

『続日本後紀』には、承和4年（837年）に多久都神が無位から従五位下に叙せられたという記録があり、この記述は当社の祭神を指していると考えられます。

この神社は、対馬特有の神仏習合の形態である天道信仰の中心地であり、観音堂と一体となっていました。供僧による祭祀が行われていたことが特徴です。天道信仰は、母子神信仰、太陽信仰、山岳信仰などが習合したものであり、当社は本来は神殿を持たず、禁足の聖山である天道山（竜良山）を遥拝する場所でした。

明治時代の神仏分離によって、神宮寺であった豆酘寺の観音堂を社殿としましたが、この観音堂は1956年の火災で焼失しました。

文化財

多久頭魂神社には、以下の重要な文化財が所蔵されています。

重要文化財（国指定）
金鼓：高麗時代に製作された銅製の金鼓（鰐口）。直径81.2センチで、「禅源□巳五月日晋陽府」などの銘文と、正平12年（1357年）の追銘があります。この金鼓は、1245年に現在の韓国慶尚南道晋州市で制作されたと考えられています。
梵鐘：康永3年（1344年）に肥前松浦の鋳物師が製作した和鐘。池の間（撞座の上の広い区画）には長文の銘があり、寛弘5年（1008年）に最初に造られた鐘を1344年に再鋳したものであること、工人は肥前上松浦山下庄の大工覚円と小工季央であることが記されています。
高麗版一切経：3巻、2帖、1016冊。附として大般若経（和版318帖、写本6帖）324帖があります。2017年度に指定されました。

文化財の盗難事件

神社が所蔵していた「大蔵経」は、長崎県指定文化財でしたが、2012年10月に海神神社の「銅造如来立像」や観音寺の「観世音菩薩坐像」と共に盗難に遭いました。この事件は「対馬仏像盗難事件」として知られています。2013年1月には、韓国に持ち込もうとした韓国人グループが逮捕され、仏像2体は回収されましたが、大蔵経は「神社周辺の野山に捨てた」と供述しており、現在も見つかっていません。

まとめ

多久頭魂神社は、対馬の歴史と文化、そして古代からの信仰を今に伝える重要な神社です。神仏習合の歴史や、貴重な文化財の存在は、この神社が持つ歴史的、文化的な価値を物語っています。過去には盗難事件という悲劇に見舞われましたが、その歴史的価値は失われることなく、現在も大切に守られています。

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