多古光湿原

多古光湿原

多古光湿原は、千葉県香取郡多古町と山武郡横芝光町にまたがる、県内最大級の湿原です。約24ヘクタールの広さを持ち、栗山川と借当川の合流地点に位置しています。この湿原は、千葉県のレッドデータブックに掲載される貴重な植物が生育する場所であり、特にムジナクグはここでしか見られない固有種です。

湿原の成り立ち

多古光湿原は、縄文時代の海進によって海底になった後、その後の海退によって沖積地として形成されました。この湿原には、本来は汽水域や寒冷地に生育する植物が見られますが、これらはかつて海や寒冷地であった頃の遺存種と考えられています。明治時代には70ヘクタールほどの広さがあったとされていますが、周辺の開墾によって水田化が進み、現在の広さに縮小しました。かつては、湿原に生えるヨシが茅葺屋根の材料として利用され、地域住民によって共同管理されていました。

植生

多古光湿原では、これまでに288種類の植物が確認されています。湿原の中央部にはヨシやカモノハシが茂り、周辺はハンノキが取り囲んでいます。春には、ヨシ、オオニガナ、ワレモコウ、エゾツリスゲ、チガヤ、ノハナショウブ、ヌマトラノオなどが咲き誇ります。夏から秋にかけては、ヨシ、オギのほか、コオニユリ、コバギボウシ、カサスゲ、ツルマメ、ヒメシダ、クサレダマ、エゾミソハギなどが見られます。近年では、セイタカアワダチソウなどの外来種も侵入しています。

特筆すべきは、汽水域に生育するオオクグが内陸部に生育している点や、寒冷地性のエゾツリスゲ、ヌマクロボスゲ、ムジナスゲが見られる点です。また、1989年に発見されたムジナクグは、この湿原固有の新種として認められました。これらの植物の中には、千葉県レッドデータブックで最重要保護対象に指定されているものも多く、湿原の貴重な生態系を物語っています。また、カキツバタ、キセルアザミ、コムラサキなど、県重要保護種も生育しています。

動物と昆虫

多古光湿原では、ニホンアカガエルをはじめとする貴重な動物も確認されています。鳥類は50種類ほどが観察されており、チョウゲンボウやノスリなどの猛禽類、カルガモやマガモなどの水鳥、タゲリやカワセミなどの多様な鳥類が生息しています。昆虫類では、ミドリシジミやオオルリハムシなどが見られます。特にオオルリハムシは、多古光湿原では比較的よく見られますが、全国的には生息地が限られており、千葉県の重要保護生物に指定されています。

保全活動

多古光湿原の保全活動は、地域住民による積極的な取り組みによって支えられています。「栗山川流域の自然調査会」による調査研究・保全活動が長年行われており、ヨシ原の刈り取りや観察会などが実施されています。多古町と横芝光町の住民が中心となって設立された「多古光湿原保全会」は、ヨシの刈り取りのほか、講演会や写真展などを通して湿原の重要性を広く周知しています。また、同会は、多古光湿原に関する図書『多古光湿原 植物と自然』を出版し、その価値を伝えています。

さらに、横芝光町にある坂田ふれあい公園内には湿性植物園が設けられ、栗山川中流域の植物が移植・保護されています。ムジナスゲ、オオクグ、ムジナクグなどの貴重な植物も、この植物園で保存・育成されています。

多古光湿原は、その希少な動植物が生息する貴重な場所であり、地域住民の努力によってその自然が守られています。今後も、その貴重な生態系を後世に伝えるための保全活動が続けられることが期待されます。

もう一度検索