多忠修

多 忠修（おおの ただおさ）は、1913年7月14日に生まれ、1996年1月22日にその生涯を閉じた日本のジャズミュージシャンです。萩原忠司という筆名も使用していました。多氏は、平安時代から続く雅楽家の名門家系に属しており、父である多忠基氏も宮内省で雅楽課の楽長を務めるなど、厳格な伝統音楽の環境で育ちました。息子は日本電子専門学校の理事長である多忠和氏です。

伝統ある雅楽の家系に生まれた多忠修氏ですが、音楽のキャリアはジャズという新しい分野で花開きました。宮内省の楽部で学んだ後、1931年にはジャズミュージシャンである三上秀俊氏のバンドに参加し、ジャズの世界に足を踏み入れます。そして翌1932年、多氏は宮内省での職を辞し、正式にジャズ音楽家としての道を歩み始めるという大きな決断をします。この転換は、彼の後の活動の基盤となりました。

ジャズの世界に身を投じた多氏は精力的に活動を展開します。1937年には、彼自身の名を冠した14名編成のジャズオーケストラ、「多忠修とミュージック」を結成し、バンドリーダーとしての才能を発揮します。その後、活動の場を広げ、1940年には日本の代表的な劇場である日劇（日本劇場）のオーケストラ指揮者に就任。さらに1943年には、日本の公共放送を担うNHK東京放送管弦楽団の指揮者としても活躍しました。しかし、太平洋戦争の戦況が悪化するにつれて、音楽活動は制限され、1944年には横須賀海兵団に入隊することとなります。

終戦後、多忠修氏は再び音楽活動を再開します。著名なジャズバンドである「渡辺弘とスター･ダスターズ」に参加し、経験を積んだ後、1949年には自身のバンドである「多忠修とゲイスターズ」および「多忠修とビクター・オールスターズ」を結成しました。この頃は日本にジャズブームが到来しており、多氏はその波に乗ってバンドリーダー、ジャズ・サクソフォーン奏者、そして指揮者、作曲家、編曲家として多方面で活躍しました。

彼の作曲家としての功績は特に知られており、個性的なコメディアン・歌手であったトニー谷氏の楽曲のほとんどを手がけました。トニー谷氏のユニークな世界観を音楽で表現する上で、多氏の才能は不可欠でした。また、多氏はトニー谷氏のバックバンドの指揮も務めるなど、緊密な協力関係にありました。トニー谷氏の作品以外にも、戦後の人気歌手である雪村いづみ氏のヒット曲の一つである『東京の三人娘』など、数々の楽曲を作曲しています。このように、多忠修氏は伝統的な雅楽の世界からジャズへと転身し、戦中・戦後の激動期を経て、日本の大衆音楽やジャズシーンにおいて、演奏、指揮、作曲、編曲と多岐にわたる役割を担い、大きな足跡を残しました。彼の音楽は、当時の日本の文化に深く根ざし、多くの人々に親しまれたのです。

もう一度検索