多氏

多氏 - 古代から現代まで続く皇別氏族

多氏（おおし）は、日本最古の皇別氏族の一つとされる由緒ある氏族です。「多」のほか「太」「大」「意富」「飯富」「於保」といった表記も見られ、九州から畿内にかけて広く勢力を持ちました。奈良時代以降、宮廷音楽である雅楽、特に神楽と舞楽の演奏を家系で受け継いできた楽家としても知られています。

多氏の起源と広がり

神武天皇の子である神八井耳命（かむやいみみのみこと）を祖とする後裔と伝えられています。『古事記』によると、多氏の子孫は大きく三系統に分かれ、それぞれ中央、九州、東国で栄えました。

中央豪族系統: 多朝臣、意富臣、小子部連、坂合部連など、朝廷の中枢で活躍した有力氏族が多く輩出しました。
九州系統: 火君（ひきみ）、大分君（おおいたきみ）、阿蘇君（あそきみ）、筑紫三家連など、九州各地の国造を担い、地方社会を統治しました。阿蘇神社神主家である阿蘇氏は、この系統の代表的な一族です。阿蘇氏の祖は健磐龍命（たけいわたつのみこと）とされ、『日本書紀』にもその子孫が登場します。阿蘇氏の本流は後世に断絶しましたが、傍流の宇治部公（うじべのきみ）の系統が継承し、現在に至っています。
* 東国系統: 科野国造（しなのこくぞう）、道奥石城国造など、東国各地で国造を務めた一族が多数存在しました。神八井耳命の四世孫である武五百建命（たけいおたけのみこと）が科野国造に任じられたことが始まりとされています。その子孫からは、諏訪神党の祖先も出ています。

九州に多氏の大族が多く存在した理由については、神武天皇が本拠地を近畿に移した後、九州を神八井耳命に与えたため、その子孫が各地で勢力を拡大したという説があります。

多氏と雅楽

多氏は、雅楽の中でも特に神楽の起源に深く関わっています。9世紀の多自然麿（たしぜんまろ）は神楽の祖とされ、その子孫は代々宮廷楽師として仕え、地下の楽人として名を馳せました。応仁の乱以降もその系譜は続き、現代に至るまで雅楽の伝統を受け継いでいます。

興味深いことに、多氏からは雅楽家だけでなく、明治時代の作曲家である多梅稚（たばいち）、『宵待草』の作曲者である多忠亮（ただゆうすけ）、そして、トニー谷の『さいざんす・マンボ』などの作曲者である多忠修（ただゆうしゅう）など、多くの文化人も輩出しています。

多氏の系譜と歴史上の事件

『和州五郡神社神名帳大略註解』に収められた「多神宮注進状」（久安5年、1149年）には、多氏の系譜の一部が記されています。崇神天皇から天武天皇の時代にかけて、武恵賀前命、仲津臣、蜾蠃、多品治といった人物が登場し、太安万侶も多氏の子孫であるとされています。

戦国時代の丹羽氏も多氏の後裔とする説があり、また、歴史上、舞楽の秘曲の伝承をめぐる争いが発生したことも知られています。康和2年（1100年）、堀河天皇の御神楽歌師範を務めた多資忠とその息子・多節方が、親戚筋の山村政連に殺害されるという事件が起こりました。この事件は、多氏内部の秘曲の伝承と、家系の分家、そして養子縁組といった複雑な事情が絡み合っていました。

まとめ

多氏は、日本最古の皇族の一つとして、古代から現代まで続く歴史を持つ氏族です。朝廷や地方社会において重要な役割を果たし、雅楽の伝統を守り続けたその歴史は、日本の文化史において特筆すべきものです。系譜、歴史上の出来事、そして現代まで続くその影響力は、多氏を研究する上で重要なテーマとなっています。今後も、新たな知見や研究を通して、多氏に関する理解が深まることが期待されます。

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