多治比嶋

多治比嶋（たじひ の しま）

多治比嶋は、飛鳥時代における重要な公卿であり、その名は志麻または志摩とも表記されます。彼は宣化天皇の4世孫で、摂津大夫である多治比古王（丹比麻呂）の子どもです。もともとは姓が公でしたが、のちに真人に改められ、官位としては正二位・左大臣にまで昇りつめました。

経歴

嶋の生誕は推古朝とされているものの、歴史的な記録に登場するのは天武天皇の治世時期の681年頃からです。天武天皇13年（684年）に制定された八色の姓制度では、天皇家の血統が彼に引き継がれており、特に天武天皇の高祖母である石姫皇女が宣化天皇の娘であることから、嶋もその最高位である真人の姓を授与されることとなりました。

天武天皇は大臣を置かない皇親政治を行っていたため、嶋の公的な役割は限定的でした。しかし、天武天皇の崩御後、持統天皇の時代に進むと、状況は一変します。持統天皇4年（690年）に皇后として即位した鸕野讚良皇女の統治下で、嶋は壬申の乱で罰せられて以来空職となっていた右大臣に昇進しました。この時期、彼は太政大臣の高市皇子の次に立つ重要な役職に就き、持統天皇11年（696年）の皇子の死を受けて、臣下の最高位となるのです。

文武元年（697年）には左大臣に就任し、大宝元年（701年）には正二位に叙従されます。しかしながら、彼はその地位に昇進してほどなく亡くなってしまいました。この時期は、大宝律令の完成が迫っていた重要な瞬間でした。

文化的影響

多治比嶋は『竹取物語』の登場人物、貴族の石作皇子のモデルとも言われており、当時の文献や伝説において彼の重要性が伺えます。さらに中西進の研究によれば、彼は著名な宮廷歌人の柿本人麻呂の後援者でもあったとされています。彼の死去前には、大納言である大伴御行が亡くなっており、以降は阿倍御主人が空職を埋めることになりました。その後、彼もすぐに亡くなり、嶋の次に左大臣に昇進した石上麻呂も持統天皇の統治のもとで苦境に立たされました。多治比嶋から続く天武朝の老臣たちは次々と姿を消し、結果的に藤原不比等が藤原氏の最初の黄金時代を築くことになりました。

系譜

多治比嶋の家系は、彼の父が多治比古王（丹比麻呂）、母が大伴比羅夫の娘という豪族との関係があり、同母弟には多治比三宅麻呂と多治比夜部がいます。妻は紀大人の娘で、彼との間には長男の多治比池守をはじめとする数人の子供が存在しました。

多治比池守は奈良時代に大納言に昇進し、中流貴族としての繁栄を享受しました。ただし、平安時代に入ると多治比氏は衰退していきます。嶋の玄孫である真宗は桓武天皇との間に葛原親王をもうけ、その血筋は桓武平氏にも引き継がれることになります。

さらに鎌倉時代には、武蔵七党のうち丹党が多治比氏の後裔を名乗るなど、その影響は長きにわたって広がりました。

系図

• - 継体天皇
• - 宣化天皇
• - 上殖葉皇子
• - 十市王
• - 多治比古王
• - 多治比嶋

多治比嶋は日本の歴史において非常に重要な役割を果たし、彼の存在は多くの文献や伝承に残されています。

もう一度検索