夜鶴庭訓抄

夜鶴庭訓抄について

夜鶴庭訓抄（やかくていきんしょう）は、平安時代末期に藤原伊行（世尊寺家の六代目当主）によって書かれた、日本における現存最古の書論書です。この著作は、古代の日本における書の技術や美意識を反映した重要な文献といえるでしょう。

タイトルの由来

「夜鶴」という言葉は、白居易の詩『五弦弾』の一節に由来しており、親の子を思う熱い情を象徴するものとして使われています。一方、「庭訓」という名は、親が子に伝える教訓を表しています。このことから、伊行は娘である建礼門院右京大夫に向けてこの書を執筆したと言われています（『群書類従』に記載されています）。

成立時期

夜鶴庭訓抄の成立年代は正確には不明ですが、著作内に見られる「当院」（後白河法皇）や「当今」（高倉天皇）の表記から、仁安3年（1168年）に即位した高倉天皇の時代、あるいはその後の安元3年（1177年）以降であることが示唆されています。さらに、伊行の息子・伊経の書論書『才葉抄』にも本書に関する言及が存在し、遡ることができる文献としての重要性が認められています。

内容の概要

本書は、主に以下の二つの部分に分けることができます。1つ目は、書式や揮毫にかかわる伝統的な知識や技術の解説であり、草子書様や和歌書様などの書様に加え、さまざまな場面での見本となる書き方について記載されています。2つ目は、実際の書法についての解説であり、使用する道具（硯や墨、筆など）や揮毫に関する具体的な技術（急ぐ場合、雨中や灯前での揮毫、御前での揮毫など）が詳述されています。

能書家とその役割

本書には、歴代の清書役を担った能書家たちについての情報も含まれています。彼らは内裏の額書人や悠紀主基御屏風人など、ある時代における書の実践者たちです。世尊寺家は代々能書家として公事に関わり、その伝統は後の世代に受け継がれていくことになります。「夜鶴庭訓抄」に記されている内容は、世尊寺家にとっては「秘伝」「口伝」として重要であり、外部に公表することは本来タブーとされていました。

時代背景と書論書の編纂

しかし、後白河院政期には摂関家を中心とした法性寺流が台頭し、世尊寺流の優勢が危ぶまれる状況が訪れます。このような背景の中で、子弟の教育や世尊寺家の書に対する主張が求められるようになり、結果として『夜鶴庭訓抄』や後に続く『才葉抄』のような書論書が編纂されるに至りました。

孫の発展

また、伊行の孫である行能は、同書を基にして書札礼についてさらに詳しく論じた『夜鶴書札抄』を著しています。これにより、世尊寺家の書の理論はさらに深化し、次世代へと引き継がれていくのです。

夜鶴庭訓抄は、日本の書文化において重要な位置を占める文献であり、当時の書の技術や美意識を知る手がかりを提供しています。

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