大三冠

囲碁界の至宝「大三冠」とは

囲碁の世界において、「大三冠」とは、かつて存在した七大タイトルの中でも特に格式の高い棋聖・名人・本因坊の3つを同時に保持することを意味する言葉でした。

この偉業を達成したのは、趙治勲と井山裕太の2名のみであり、その希少性と権威から、囲碁界における特別な称号として語り継がれてきました。

2023年までは、この3タイトルは「三大タイトル」と呼ばれ、他の七大タイトルとは異なる特徴を持っていました。例えば、挑戦者を決定する方式は、他のタイトル戦がトーナメント方式であるのに対し、三大タイトルは総当たりのリーグ戦を採用していました。また、対局形式も異なり、他のタイトル戦が1日制の五番勝負であるのに対し、三大タイトルは2日制の七番勝負で行われていました。さらに、賞金額も他のタイトルと比較して群を抜いて高く、その総額は1億円を超えるほどでした。

しかし、2024年以降、本因坊戦の形式が変更されたことにより、かつての「三大タイトル」という区分は事実上消滅しました。挑戦手合で八段、獲得で九段に昇段できるのは棋聖と名人の「二大タイトル」のみとなり、二大タイトルの同時在位者を棋聖・名人（きせいめいじん）と呼ぶようになりました。これは、将棋における「竜王・名人」に相当する存在と言えるでしょう。

名人本因坊という称号

また、歴史的な称号として、名人と本因坊を同時に獲得した棋士は、慣習的に「名人本因坊」と称えられてきました。しかし、本因坊戦が2日制の七番勝負ではなくなった2024年に名人本因坊を達成した一力遼に対して、その呼称は報道されませんでした。このことから、「大三冠」と同様に、「名人本因坊」という称号も過去のものとなった可能性が指摘されています。

大三冠を巡る状況の変化

小林光一は、約5年間棋聖と名人の二冠を保持し続けましたが、本因坊位を獲得することができず、大三冠達成はなりませんでした。彼は3度本因坊戦に挑戦しましたが、いずれも趙治勲に阻まれています。

また、坂田栄男、林海峰、石田芳夫の3名は、過去に名人本因坊を同時達成していますが、当時は棋聖戦が存在しなかったため、「大三冠」という概念自体が存在しませんでした。

平成四天王と呼ばれた張栩、高尾紳路、山下敬吾の3名も、名人本因坊を同時達成していますが、棋聖位との同時在位は実現しませんでした。ちなみに、張栩は3期、山下敬吾は5期にわたって棋聖位に在位しています。

一力遼は、棋聖在位中の2023年、最後の七番勝負制となった本因坊戦で井山裕太から本因坊位を奪取しました。さらに翌2024年には、芝野虎丸名人から名人位を奪取しましたが、日本棋院の公式サイトでは「大三冠」とは扱われず、単に四冠達成として記載されるにとどまりました。時事通信社も、「かつて格式ある「大三冠」と呼ばれた」と明記し、この称号が過去のものであることを示唆しています。一力が取締役を務める河北新報社の記事では、一力の本因坊位が七番勝負時代に獲得されたものであることから、「事実上の大三冠達成者とみることができる」としながらも、一力自身が「事実上最後の大三冠」と述べています。これらの報道から、一力の「大三冠」は公式なものではなく、今後、棋聖・名人・本因坊を同時に保持する棋士が現れても、「大三冠」とはみなされない可能性が高いと言えるでしょう。

歴代大三冠達成者

趙治勲
井山裕太

歴代名人本因坊

坂田栄男
林海峰
石田芳夫
張栩
高尾紳路
山下敬吾

棋聖・名人同時在位者

趙治勲
小林光一
井山裕太
一力遼

終わりに

囲碁界における「大三冠」という称号は、時代の変遷とともにその意味合いを変化させてきました。しかし、その称号が持つ重みと、達成者たちの偉業は、これからも囲碁史に燦然と輝き続けることでしょう。

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