張栩

張栩（ちょう う）

張栩（ちょう う、チャンシュイ、1980年1月20日 - ）は、台湾出身の囲碁棋士で、日本棋院に所属しています。九段の腕前を持ち、林海峰名誉天元の門下で学びました。妻は女流タイトルグランドスラムを達成した小林泉美であり、義父は小林光一名誉三冠という囲碁一家です。

偉大な記録保持者

張栩は、史上初の五冠王、史上2人目のグランドスラム達成者として知られています。また、通算七大タイトル獲得数で歴代5位、三大タイトル獲得数でも歴代5位タイにランクイン。日本の囲碁棋士の獲得タイトル数ランキングでは歴代7位に名を連ねています。さらに、棋道賞最優秀棋士賞を7回受賞（歴代2位タイ）、王座位獲得数も歴代2位と、数々の輝かしい記録を保持しています。賞金ランキングでは、4年連続を含む通算7回で1位を獲得（2003-05・07-10年）しました。

かつては、羽根直樹、山下敬吾、高尾紳路らとともに「若手四天王」と称されましたが、現在は「平成四天王」として広く知られています。

生い立ちと来歴

囲碁との出会い

6歳半の時、囲碁塾を経営していた父親から囲碁を学び始めました。経済的に恵まれた家庭ではなかったにもかかわらず、父親は張栩の囲碁上達のためにあらゆるサポートを惜しみませんでした。囲碁を教える前に、トランプやチェス、中国将棋などの頭脳ゲームを通じて「考える力」を養わせました。囲碁を始めて1年後には、台湾のアマ初段（日本でのアマ三、四段相当）となり、周囲から「天才少年」と騒がれるほどでした。

小学校には5歳半で入学し、2、3年生の時に1年間休学して囲碁に打ち込みました。その後、台湾全土の大会「十傑戦」で7位に入賞。8歳の頃には、作家の沈君山の紹介で台湾のプロ棋士・陳国興の弟子となり、さらに陳の紹介で林海峰（現・名誉天元）と出会いました。

日本へ

10歳になる頃には、台湾の同世代ではトップレベルとなり、プロ棋士になるため日本へ行く話が持ち上がりました。当時の台湾ではプロ棋士制度が十分に整備されておらず、囲碁で身を立てるためには日本でプロになるという流れがありました。林海峰、王立誠九段、王銘琬九段に続く存在として期待され、張栩自身も日本へ行く以外の選択肢がない状況でした。

10歳半で来日し、林海峰の内弟子となりました。来日前は台湾のトップ棋士にもハンデをもらえば勝負になっていましたが、日本の院生のレベルの高さに衝撃を受けました。当時の院生には、後にライバルとなる山下敬吾、溝上知親、秋山次郎、蘇耀国らがいました。

苦悩の日々

院生時代はAクラスとBクラスを行き来する日々が続き、思うように成績が伸びませんでした。林海峰の指導方針は「自分で考える」というものだったため、これまで指示された勉強をしてきた張栩は戸惑いました。日本語が分からない中での緊張感のある生活も、大きな負担となりました。同じ内弟子の林子淵と慰め合うこともありましたが、ライバルでもあるため悩みを打ち明けることはできませんでした。

蘇耀国との出会いも衝撃的でした。同学年ながらその才能に驚かされました。また、日本に来てから家族にも会っていなかったため、13歳の時に母親が日本へ来て「囲碁をやめてもいい」と言ってくれたことが転機となりました。林師匠に相談した結果、台湾の父親も来日し、改めて話し合うことになりました。

プロ棋士へ

次のプロ棋士採用試験を最後の受験にすると決め、見事合格。しかし、試験結果は10勝7敗で6位と、本来であれば落選でした。しかし、その年は特別に採用人数が1人増えたため、敗者復活戦が行われました。見事、この試験を1位で通過し、プロ棋士となることができました。

中学卒業後は、囲碁に専念するため進学はしませんでした。一人暮らしを始めたことで時間が増えたものの、当時はインターネット対局がなかったため、詰碁の創作を始めました。

名人本因坊

2000年、ライバルの山下敬吾が碁聖を獲得したことに刺激を受け、高尾紳路、蘇耀国、溝上知親と研究会を開き、打倒山下に燃えました。2001年には本因坊挑戦権を獲得するも、王銘琬本因坊に敗れました。

2003年、本因坊リーグプレーオフで王銘琬王座に勝利し、2度目の挑戦権を獲得。加藤剱正本因坊との挑戦手合を制し、初の七大タイトルとなる本因坊を獲得。さらに王座も獲得しました。2004年には名人位も獲得し、史上5人目の「名人本因坊」となりました。

五冠とグランドスラム

2008年、碁聖位3連覇、十段戦挑戦者、名人防衛、阿含・桐山杯優勝、天元位獲得、王座獲得と怒涛の勢いでタイトルを積み重ね、史上4人目の四冠となりました。翌2009年には、十段位を獲得し、史上初の五冠（名人、十段、天元、王座、碁聖）を達成。しかし、その直後に帯状疱疹に苦しみ、五冠を失いました。

2010年、棋聖戦で山下敬吾を破り、棋聖位を獲得。趙治勲に続く史上2人目のグランドスラムを達成しました。

台湾へ移住と復帰

2012年、王座戦で井山裕太に敗れ、五冠王誕生を許しました。その後、タイトルから遠ざかり、碁への情熱を失いかけていた時期もありました。2015年、家族で台湾に移住し、生活拠点を移しました。台湾では、多くの棋士と交流し、早碁を打つ中で自信を取り戻しました。また、プロを目指す子どもたちに碁を教えたり、教材を作成したりと充実した日々を過ごしました。

2016年、NHK杯で優勝し、約4年ぶりにタイトルを獲得。2017年には通算900勝を達成し、最年少記録を更新しました。2018年、名人戦挑戦手合で井山裕太名人を破り、9年ぶりに名人位を奪還しました。しかし、2019年には芝野虎丸に敗れ、名人位を失いました。

記録とエピソード

張栩は七大タイトルを24期（歴代5位）、タイトル獲得数・優勝数41期（歴代7位）と、囲碁史に残る偉大な記録を打ち立ててきました。しかし、5連覇や10期で得られる名誉称号は一つも獲得していません。王座と碁聖で4連覇まで行ったものの、あと一歩及びませんでした。

2003年に棋士の小林泉美と結婚。2人の娘もプロ棋士となり、親子三代で囲碁棋士という珍しい一家です。

囲碁の普及にも熱心で、「よんろのご」や「張栩の黒猫のヨンロ」などの教材やアプリを開発しました。

棋風

詰碁作りを趣味としており、扇子の揮毫にも自作の詰碁を用いるほどです。読みの速さ、深さ、正確さに定評があり、特に局所的な死活の判断に優れています。実利派でありながら、柔軟な発想と決断力を持ち合わせ、繊細な戦術を駆使します。また、コウの名手としても知られています。

その他

張栩は、囲碁の実力だけでなく、その人柄も多くの人に愛されています。彼の活躍は、多くの囲碁ファンに感動と勇気を与え続けています。

主な成績

NHK杯優勝：4回
NEC杯優勝：3回
新人王戦優勝：1回
阿含・桐山杯優勝：5回
竜星戦優勝：2回
LG杯世界棋王戦優勝：1回
テレビ囲碁アジア選手権戦優勝：1回

著書

打碁鑑賞シリーズ7『張栩』
張栩の詰碁
張栩の特選詰碁
トッププロに学ぶ 珠玉の7大講座（共著）
勝利は10%から積み上げる
張栩の実戦に学ぶ コウの考え方 全27局徹底解説
よんろのごのほん 張栩からのもんだい100
新版 基本死活事典
囲碁パズル 4路盤 問題集105
張栩の捨て石詰碁 上・下巻

外部リンク

張栩 | 棋士 | 囲碁の日本棋院
* 張栩のプロフィール - LIBERARY（リベラリー）

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